研究概要 |
明治期、わが国の三大疎水事業のひとつである兵庫県淡山疎水(淡河川・山田川)の実現条件と地域対応について研究調査した。まず、その前提となる問題点として、疎水事業を必要とする加古台地の自然的条件,溜池水利システムと水利慣行,溜池と河川水利の根本的な相違点,水利団体の組織と特質などを明らかにした上で、次の3点をもって、その実現条件であることを指摘することができた。 1.水源対策として水車業補償と潅漑期間の制限による水利調整。 2.技術移転による河川導水に必要な御坂サイホンの建設。 3.明治政府の勧農政策と疎水事業の工事費の調達。 この研究成果は、淡山疎水を從来のアプローチとは反対に、水源地域の下流部対策から分析することにより得られた新知見であり、わが国における流域変更=分水と地域対応の歴史的実験として位置づけることができたと考えられる。拙著:『水利開発と地域対応』の基本問題である。 さらに、淡山疎水の通水効果を、同時代の安積疎水及び明治用水と比較調査を行った。三地域とも、開田による水田面積の拡大,土地生産力及び労働生産力の増大,地価上昇等の効果が顕著であった。ただし、水田化率では、淡山疎水地域が他の安積・明治用水の受益地域を圧倒したことが注目される。ところで、前記の両疎水地域では、通水後に水源が安定し、從前からの溜池群を全く不要にしたのに対し、淡山疎水地域では上記のような水田化率の卓越にもかかわらず依然として溜池を主な潅漑用水源としているのである。これなどは、とくに降水量が少ないという理由では説明がつかず、淡山疎水事業が流域変更=分水に起因するものであることの説明によって、はじめて理解することができると考えられる。次年度は、かかる視点に立脚して、淡山疎水地域に展開する東播用水をみる。
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