研究概要 |
補助金交付の通知が10月であったため、新規購入の図書の発注がおくれ、一部は未着のままで研究を進めなければならなかった。したがって当初の計画を若干変更したが、次の成果が得られた。 1.民族新聞が少数派の声を集約し、多数派の支配にみられる独善と偏見に対抗する役割をになう点は不変である。とくに新移民が多いヒスパニック,華人,韓国人の社会に根をおく民族紙にそれが顕著である。また、黒人紙,先住アメリカ人紙は移民としての視点からでなく、「本来の古いアメリカ」が受ける差別・偏見への抗議を行っている。 2.しかし、商業化が進んだ新聞は少数派の自己主張を強く前面に押し出すとは限らない。一定の販売量を確保するためには政治色を鮮明にせず、また広告収入への依存が大きいことから、強力な反体制色を打ち出すことを避けている。その結果、少数派の地域社会にかかわる問題解決への提言は、特定政党の支持という形ではなされない。もっとも強力であるはずの黒人紙が、往々にして保守的な人種観を展開したり、一般的でありすぎる見解を表明することが珍しくない。 3.それに反し、発行部数の少ない非商業紙が鋭い論調で特色づけられている。しかもこの一種の地域社会機関紙(誌)はすべて英文であり、アメリカ化した人々の手で発行されている。民族紙(誌)といっても狭い範囲での民族集団を対象にしておらず、全アジア系に根をおろすものがある。 4.人種・民族の差別は性差別と根が同じであると考える新聞・雑誌は、上記3の分類に該当し、「民族」の誇りを「ミス・……系人」で表現するような方法を否定する。新聞の場合はまだ狭い地域にのみ配布されているので、その影響力は小さいが、この型の新聞が西岸諸都市に出現しつつあるのは興味深い。
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