研究概要 |
一般教養課程の化学に導入可能な天然物を対象とした実験を研究した。一つは天然物の構成成分の検索に関する実験であり、もう一つは天然物を利用した実験である。天然物の分析には多くの化学的知識が要求される。勿論学生の多くはその知識を持ちあわせてはいないが、実験を通じて体験的に多くのことを学ぶことができる。例えば、芳香成分の分離の操作では水蒸気蒸留を行うが、この操作より沸騰の意味を知る。さらに香気成分が非常に多くの物質の集合体であり、その中に分子量,分子式が同じでも性質の異なるものが存在することを知り、異性体の存在を学ぶ。またケン化反応では、脂肪酸と不ケン化物を分離するが、ここでは遊離の脂肪酸とそのNa塩の水あるいは他の有機溶媒に対する溶解性の差を知ることより、親水性・親油性という言葉を学び、その結果洗剤の原理や溶解と分子構造の関係を学ぶ。また我々が日常なんの気なしに使用している油も何種類かの脂肪酸を含んでいることを知る。その他実験に用いた薄層クロマトグラフィーを通じて、クロマトの概念や溶媒に関する知識(極性,無極性)を学ぶことが出来る。成分の実験については、柑橘類の果皮,ラベンダーの果房,アボガドの実,お茶,スルメ等について実験を行ってみた。天然物の利用については、植物の葉による染色実験を研究した。その結果、街路樹の落葉でも媒染剤の使用により、種々の色に染色することが可能であることがわかった。この実験は分子構造と色の関係、色とスペクトルへの発展がある。今回の研究の一部を授業に導入してみた。上にあげた効果の他にも多くの利点がみられた。文献の調査より始まる一連の実験は学生にとって始めての体験であり、一つの決定をくだすのには色々の面からの追求が必要であり、その全ての総合により決定される手法を学び、自ら調べ、自ら考えることの重要性を認識したことがレポートにみられた。
|