研究概要 |
近年学問の進展につれてヒトや実験動物の細胞あるいは遺伝子(DNA)を保存し, 細胞バンク・遺伝子バンクを設立する動きが高まりつつある. しかしそれらはガン研究など絞られた目的にむけ設立されたため, 対象が生物種ばかりでなく遺伝子も非常に限られたものにとどまっている. これに対し, 我々は内外の動向に鑑み, 希少試料の保存・供給も兼ねて, 広く霊長類全般にわたり人類学領域における細胞ならびに遺伝子バンクの設立が急務であると痛感していた. そこで本研究では萌芽的一段階として, 各種霊長類の培養細胞株ならびに遺伝子ライブラリーの作製をおこない, 細胞ならびに遺伝子バンクの開発をめざし, 以下の成果を得た. (1)細胞バンク 細胞増殖因子(TCGF)あるいはDNA型(EBV)およびRNA型(HTLVI)腫瘍ウイルス等を用いて細胞の形質転換を行ない, 主としてリンパ芽球様細胞株を樹立した. これまでに類人猿4属6種, 旧世界ザル6属10種, 新世界ザル2属2種, 原猿1属1種より計72の細胞株を樹立した. (2)遺伝子バンク これまでに主として末梢血リンパ球より類人猿4属5種(21個体), 旧世界ザル5属14種(109個体), 新世界ザル6属8種(22個体), 原猿3属3種(11個体)の計163個体より高分子DNAを抽出した. これら高分子DNAを用い, ラムダファージをベクターとして, 主として類人猿を中心に遺伝子ライブラリーを作製した. これら作製した培養細胞株および遺伝子ライブラリーの周辺領域の他の研究者への供給が行なわれ, バンクとしての機能が動き出している.
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