研究概要 |
光散乱は「光波により生じた電気双極子からの双極子放射」と考える事が出来る。したがって、光の電場によって結晶内に電気分極が生ずることが必要である。この視点からすると、入射赤外線によって生ずる電子の分極は 赤外線のエネルギーと電子の束縛エネルギーとが等しくなると、誘起分極は非常大きくなり、共鳴散乱が生ずる。したがって、入射赤外線の波長を適当に選ぶと、赤外線散乱法によって半導体の電子的欠陥の研究が出来る。そこで、半導体レーザー:830nm,YAGレーザー:1064と1.315μmおよびHe-Neレーザー:1.15μmを用いて散乱像を観察した。その結果、散乱像にレーザーの光の波長依存性が見られた。この点を一層明らかにするために、窒素温度まで温度を下げ、散乱像を撮る装置を作りつつある。 光散乱法を「光の回析」という視点から眺めると、回析現象はsin(θ)/λで律せられ、X線に比べ波長が一万倍以上も長い赤外線の散乱では、X線小角散乱で観察されるような欠陥を90度光散乱で観測することになる。すなわち、赤外線散乱法は半導体内の格子欠陥,微少欠陥,クラスタリングなどで生ずる「密度のゆらぎ」の検出に適した手段となる。 一方、X線の吸収係数は原子番号にほぼ比例ので、GaAs、InPといった重い原子を含む結晶では、X線による観察には結晶を薄片化しなければならない。しかし、赤外線はこれらの半導体を容易に透過し、数センチ角といった結晶も薄片化せずに、内部を観察することが可能となる。 この原理に基づいて、散乱像と吸収像とを同時に、また、必要に応じて独立した機能での撮影が可能な装置を作った。微弱散乱光による画像形成には、コンピューターによる処理が不可欠で目下この開発にも専念している。
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