本研究の目的は飛行時間電子分光法を用い、従来の静電型電子分光器に比較して1桁高い分解能(0.5meV)を有する電子分光器を開発することにある。本年度は準備研究(方式の決定およびそれに基づく主要設備の充実)を行った。来年度は決定した方式に基づいてパルス電子源、飛行時間電子分行部の開発を行う。 所期の分解能を達成するためには、エネルギーがleV程度で持続時間が100ps以下、エネルギー広がりが約0.2meVの電子ビーム源が必要になる。このような電子ビーム源は末開発であり、当初計画に従って、負の電子親和力のGaAsの表面に数10psのパルス幅をもつGaAsAlレーザー光を照射して行う方式と、金属/酸化物/金属からなるジャンクションから放出されるトンネル電子を利用する方式を試みる。いずれも超高真空中で動作させる必要があり、電子飛行部を兼ねた超高真空チエンバーの製作、両方式の電子源部の製作を行った。電子源部から出た電子を電子レンズで平行ビームにした後、100cm飛行させる。この間の電子飛行波面の乱れは分光器の分解能の底下につながるが、検討の結果によれば電子飛行波面の乱れを100μm以下に抑える必要がある。正確な波面の維持のため、電界計算プログラムと電界中の電子軌道を求めるプログラムを開発し、静電電子レンズ系の最適設計をおこない製作した。飛行後の電子ビーム波形はビームのエネルギー分布を反映したものであり、100psの時間分解能で計測する必要がある。直接計測することは電子検知器の立ち上がり時間から考えて困難であるので、ビームの一部をゲートで切り出したのち、通過電子の総量を計測する方式を採用した。ゲートは高速縦型ゲートを設計製作した。電子波形の再現は遅延パルスジェネレーターでゲートをかけるタイミングを変えることにより行う。
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