本研究の目的は、従来の電子分光法と比較して一桁高いエネルギー分解能(0.5meV)を有する超高分解能飛行時間電子分光法の開発にある。飛行時間電子分光法は、試料にあてるパルス電子ビームを発生させる電子源部分と、試料から散乱された電子を一定距離飛行させた後、波形を計測することでエネルギー分析を行う飛行時間電子分光器部よりなる。飛行時間電子分光器部にエネルギー分解能は電子源のパルス幅と波形計測の精度で決まるが、電子分光法全体の高エネルギー分解能化には電子源の単色性も要求される。設定した目的を達成するために要求される具体的数値は、1)電子源のパルス幅が100ps程度でエネルギー幅が0.2meV〜0.5meV、2)電子パルス波形計測の時間精度(分解能)が100ps〜500ps、である。 本年度は、電子源より放出された電子ビームを飛行時間電子分光器で調べる方法で原型器の動作評価を行なった。その結果、a)GaAs電子ビーム源のパルス幅は150ps以下、エネルギー幅は100meV〜200meV、b)電子パルス波形計測の時間分解能は200ps、であることがわかった。本研究の成果は、1)GaAs電子源で従来報告されている2nsよりもさらに狭いパルス幅の電子ビーム発生が可能であることが判った、2)飛行時間電子分光部は所期の仕様で動作させることができた、3)電子分光器の高分解能化が達成された結果、GaAsから放出される電子のエネルギー広がりの原因はGaAs表面ポラリトンに起因するらしいことが判った、である。 今後の課題として電子源の単色化が残ったが、表面ポラリトンによるエネルギー広がりは電子源を冷却すること等で除去できるので、予定は少し遅れているが、現在冷却電子源のエネルギー分析を行っている。
|