研究概要 |
支持液膜を実用化するに際しての最大の問題点である液膜の劣化の主原因は支持体に含浸させた抽出剤の溶出である。本研究では溶解度の比較的大きな抽出剤にも適用できる非劣化性支持液膜(長寿命液膜)を開発した。その原理は支持体として不織布を裏打ちしたラミネート膜を用い、膜の一端を膜液に浸すことにある。尚膜液は消費された分だけ適当に補給する。この支持液膜を秋田県小坂の同和鉱業で稼動しているGa,Inの湿式製錬プロセスに応用した。このプロセスには三つの抽出,逆抽出工程がある。第1段階はGa,InのVersatic酸を用いた予備濃縮工程,第2,3段階はIPE(イソプロピルエーテル)及びTBP(りん酸トリブチル)によるGa,Inの分離,回収工程である。TBP,IPEは従来液膜に使われていたLIX 64Nなどの百〜一万倍も溶解度が大きく、安定な支持液膜は作れないと考えられていた。本研究では、まずTBPによるInの抽出を長寿命支持液膜を用いて行ったところ膜液の補給がなければ60時間で膜破壊が起こるのに対して、100%TBPを0.3【cm^3】/hr補給するだけで200時間以上劣化しない液膜を実現できた。さらにこの方法をTBPより200倍も溶解度の大きいIPEにも適用した。その結果IPEの場合n-ドデカンのような膜補剤を膜液に添加し、膜液補給速度を増加させることにより200時間以上Gaの流束を一定に保つことができた。GaやInの流束に及ぼす被抽出液側金属濃度の影響を調べ、実プロセスに必要な膜長を計算したところ、Ga-IPE系,In-TBP系の双方について約4mとなり十分実用可能なことがわかった。また第一段階の濃縮工程にも支持液膜の応用を検討したが、この場合は抽出試薬としてVersatic酸よりα-プロモデカン酸が優れていることが明らかとなった。しかしそれでも抽出速度が小さいのでこの工程には乳化液膜法を適用する方が実用的である。
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