用水および廃水の殺菌と消毒は公衆衛生の重要な課題である。現在最も普及している方法は塩素消毒法である。しかし最近この操作過程において、トリハロメタンをはじめ有機塩素化合物などの有害な物質の副生することが指摘され、これらの物質が発ガン性などの毒性を有し、生物濃縮を受けて環境を汚染することが問題になっている。このため有害物質を副生せず環境汚染問題も起こさない微生物除去方法の開発が緊急を要する課題となっている。筆者は不溶性ピリジニウム型樹脂が水中の微生物細胞を強力に捕捉することを見出した。本研究の目的はこの樹脂の機能を利用した新しい微生物除去方法について、実用化を目ざして具体的に検討することである。この樹脂の微生物細胞捕捉作用は樹脂に含まれるピリジニウム基の量を増すと強くなることが分かった。ピリジニウム基の中ではN-ベンジルピリジニウム基が最も効果的であった。樹脂マトリックスの親水性の強さおよび水中での膨潤性が樹脂の細胞捕捉作用を強くすることも明らかになった。この樹脂のバクテリア捕捉作用はバクテリアの種類にも大きく依存し、バクテリア細胞の疎水性が強い場合には細胞の表面電荷が大きくなるとこの樹脂による捕捉作用が強くなった。従ってこの場合には細胞と樹脂表面との間の疎水性相互作用と静電気的な相互作用が重要であると思われた。しかしバクテリア細胞の親水性が強い場合には細胞の表面電荷とこの樹脂による捕捉作用との間の相関性は不明確で、水が媒介する何らかの作用が重要であると思われた。一方橋かけしていないポリマーである可溶性ピリジニウム型ポリマーは、水中微生物に対する強力な殺菌作用を示し、効果的な凝集剤となることも見出された。ピリジニウム型ポリマーの強力な細胞捕捉作用が反映されたものと思われ、顕著な高分子効果を示した。このように不溶性ピリジニウム型樹脂は水中微生物を除去する優れた材料であることが分かった。
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