興奮性組織周辺の微小電場を測定する目的で、電場を一定の周波数で変調し、この周波数のみを選択的に増巾することによって、シグナル・ノイズ比を改善し、電場の小さい変動を記録することを計画した。電場の周波数変調は電極を機械的に振動させれば良いが、これには電極自身の機械的歪と、電極の振動による電極表面と溶液との間で発生する電位(流動電位)とが大きい問題となった。この点を解決するため、いろいろの材質の電極を作製し、比較検討した。その結果、白金黒を用いるのが最良であるが、実験の目的によってはガラス電極でも利用可能であることが明らかとなった。次の問題は電極の振動方向であるが、これは実験に用いる標本の取り付け方と電極の固定方法などで制約を受ける場合が多いが、理想的には電極の縦軸方向に振動させることが望ましい。振動子は最初電磁型のものを試作したが、電極の重さのため、振動子の機械的特性が変化し、振動の安定性などに問題があった。しかし、小型でしかも出力が大きい東北金属工業製の積層型圧電アクチュエータを入手し、振動波形や周波数特性なども良好であることが分かり、振動子の問題はほぼ解決できた。増巾器としてはエヌエフ回路設計ブロック社のロックインアンプ(5600型)を用いたが、感度、安定性とも優秀であった。実際の生理学的実験としてはモルモット胃壁の平滑筋層を用いて、自発性に発生する電位変動(slow wave)を測定した。この結果、slow waveは広い範囲で同期しているため、空間的な電位勾配が非常に弱いことが明らかとなった。このための振動の振巾を100μmほどに大きくする必要があるが、流動電位の混入も相対的に大きくなる。これは振動周波数を10Hzほどに低下させることでかなり回避できる。Slow waveは発生頻度が1分間に3〜5回ほどの遅い現象であるので、低い変調周波数でも充分実用的であった。今後この装置の生理学的応用に努める予定である。
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