研究課題
特異性が高く、均一な結合特性を有し、しかも培養系を用いることにより比較的安い経費で大量生産が可能なモノクローナル抗体の特性に注目して、新しい観点に立った急性心筋梗塞の診断薬を開発した。本研究は2つの大きなプロジェクトに分けて実施された。(1) 急性心筋梗塞の診断法として、虚血により障害された心筋から血中に流出する心筋蛋白を測定する生化学的方法が、臨床で広く用いられている。我々は心筋細胞の主たる構築である筋原線維を構成する心筋ミオシンの、分子量の小さなサブユニットである軽鎖が血中に流出し、これを検出することにより、心筋梗塞を特異的に診断できるばかりでなく、梗塞部心筋の崩壊と治癒過程を直接反映した情報が得られることを示した。今回血中ミオシン軽鎖の感度に優れた微量測定法として、モノクローナル抗体を用いた二抗体サンドウィッチ法を開発した。本法によれば軽鎖を1ng/mlまで検出可能であり、さらに抗体が培養系で大量に産出できることから、測定法のキット化と量産にも成功した。現在多施設で多数の心筋梗塞患者を対象に、血中ミオシン軽鎖の測定を行い、臨床的データと対比させて、本法の臨床的有用性を確立しつつある。(2) 筋原線維のフィラメントを構成するミオシンの分子量の大きなサブユニットの重鎖に対する抗体が、梗塞部心筋では細胞膜が崩壊するために細胞内に侵入して筋原線維と結合し、集積することを利用した感度と特異性に優れた心筋梗塞の画像診断法の開発を行った。ミオシンは生理的な蛋白であるために、抗体産生に当たってはマウスハイブリドーマを利用せざるを得ない。従って異種蛋白となる抗体の抗原性を低下させるためにFc部位を除いたFab部位にすることが臨床応用に向けて必要である。我々はFab部位にしても結合親和性の高い抗体を産生するクローンを確立して量産体制を整え、臨床にいつでも提供できる状態を作った。
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