研究概要 |
まず、抗Tac抗体産生ハイブリドーマ細胞を、マウス腹腔に接種して得られた腹水より、硫安塩析沈殿,ゲル濾過,イオン交換クロマトグラフィーにより抗体を精製した。精製抗Tac抗体に、イムノトキシンの1つであるリシンのA鎖を結合させ、リシンA鎖結合抗Tac抗体を作製し、その細胞傷害性を検討した。Hut102細胞などの、IL-2レセプターを多数発現しているHTLV-I感染培養細胞株では、リシンA鎖結合抗Tac抗体存在下に72時間培養すると、対照と比べて生細胞は1/10に減少し、細胞の蛋白合成に対しても80-90%の阻害がみられた。これに対し、IL-2レセプターを発現していない細胞株に対しては、明らかな細胞傷害作用は認められなかった。ATL患者末梢血白血病細胞では、そのIL-2レセプター発現は軽度〜中等度であった。調べた10例のうち4例においては、リシンA鎖結合抗Tac抗体は、軽度〜中等度の蛋白合成阻害を示したが、その他の例では、阻害効果は低いか認められなかった。正常PHA刺激リンパ球に対しては、細胞がIL-2レセプターを発現しているにもかかわらず、細胞傷害作用はほとんど認められなかった。これらの結果より、リシンA鎖結合抗Tac抗体は、HTLV-I感染細胞株,ATL患者白血病細胞に対し、選択的に細胞傷害作用を及ぼし、実際の治療にも使用しうる可能性が示されたが、実際のATL患者白血病細胞では、満足しうる傷害効果の認められないものも少なからず存在し、今後、抗体に結合させる物質や、IL-2レセプター発現増強方法等につき、検討する余地が残されている。動物実験に関しては、ATL細胞の実験動物内での増殖が困難であった。これは、従来より報告されている結果と同じで、現在、良い実験動物モデルをつくる作業を継続して行っている。
|