本年度においては、すでに確立された胎齢10日からのマウス全胚培養法を用いて、神経堤細胞の動態に関連のある以下のような研究を行った。 1.サイトカラシンD(CD)による顔面形成の阻害 ローダミンーファロイジン(RーP)染色により、Fアクチンは顔面形成において時期特異的、場所特異的な分布パターンをとることが観察された。そこで、アクチンの顔面形成における役割を解析するため、アクチンの重合阻害剤であるCDを、妊娠10日目のマウス胎仔に全胚培養下で投与し、2時間の処理後、通常の培養液に戻して24時間の培養を行い、顔の形成を観察したところ、CD処理の胎仔においては、17例中12例(70.4%)に顔の形成異常が認められた。処理群の胎仔鼻板上皮をRーP染色により観察すると、鼻板上皮のapical siteのアクチン線維束の部分的な断片化、すなわち分布の乱れが認められた。現在、胎齢9日目からの培養を確立し、この発生段階におけるアクチンの役割を検討中である。 2.早期卵黄嚢膜開放による一次口蓋形成異常(口唇裂)の誘導 人為的操作により形成異常を誘発する系を確立することは、胎仔の発生における環境要因を調べる上で有用であると思われる。卵黄嚢膜開放(OYS)は、全胚培養を行う上で必須の操作であるが、C57BL/6マウスの場合、尾体節数8以下で行うと、口唇裂のみ100%誘導されることが分かった。OYSを早期に行って数時間経過した培養胎仔の癒合予定部位を走査電子顕微鏡により観察すると、正常発生でみられる微絨毛の消失が起きず、上皮細胞の表面は球形となり、また、球状物質も多く認められた。今後は、OYSによりどのような環境因子が変化し、このような細胞レベルの異常が生じたのかを追求する予定である。
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