本研究は、ヒトの24種類の染色体をできるだけ多くの画分として得るための分離技術の開発を第一の目的とする。ヒト染色体試料は、コルセミド処理して得た分裂中期細胞を、ポリアミンを含む緩衝液中で破壊して、遊離した染色体と狭雑物を含む粗画分、あるいは更にショ糖密度勾配遠心により精製した画分を使用した。この染色体試料をエチジウムブロマイドで螢光標識し、セルソーターでアルゴンレーザー光(488nm)を照射して、散乱光強度と螢光強度を同時に測定した。これにより、各染色体のサイズとDNA含量に対応したフローカリオグラムが得られる。現在のところ、10〜12画分(細胞の種類により異る)に分離できたが、単一染色体としては得られなかった。しかし、ヒト正常染色体、転座染色体、雑種細胞染色体を組合せることによって、複数種の染色体をソーティングした後、各画分のDNAを抽出してサザンハイブリダイゼーションをすることにより、単一コピーのヒト遺伝子の染色体マッピングが可能となった。この方法により、現在までに13個の単一なcDNA断片を特定染色体およびその染色体上の特定部位にマッピングした。また、B型肝炎ウィルス(HBV)感染と肝癌発生との間に強い相関があり、肝癌組織中にHBVゲノムが組込まれているものが多い。我々は、7例の肝癌試料よりHBVを含む組換え点付近の染色体断片を20クローン得て、その構造を解析した。その結果、ウィルス組換えにおいてはウィルスゲノム内での再編成に加えて、宿主DNAの再編成を高頻度に起こしていた。そのうち13例についてHBVを組込んでいるクローンの染色体マッピングを行った。その結果、染色体への組込みに対する特異性は見られなかった。しかし、2例について、Xと第17染色体間および第5と第9染色体間で転座が生じていた。
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