研究概要 |
初年度としての目標はほぼ計画通り達成されたと考える。すなわち、相互に関連する主要テーマについて以下のようにまとめることが出来る。 (1)光による膜電位固定装置を完成させた。セラミック光変調素子を用いた高速応答と膜抵抗の同時測定可能が独創点であり本研究の大きな武器の一つである。 (2)本装置を応用して無脊椎動物(ザリガニ)の視細胞の受容機能に関して調べた。光を介した膜電位固定下で、膜の電気透過性と光に対する感度が共に指数関数的に除々に減少するという明順応現象に関する新しい知見を得た。この効果を起こすイオン機構の解明を目的とした実験を実施中である。現在は部分的な解答を若干得た段階である。 (3)(1)の装置を脊椎動物(キンギョ,コイ)網膜L型水平細胞の光応答特性の究明に応用した。等電位光応答で膜抵抗は長波長では増加であったが短波長では微小増大が減少であった。この結果は錐体→水平細胞のシナプス伝達機構に関する従来の定説に補正を加える。すなわち、青/緑錐体からの伝達物質は膜透過度を減らす特殊タイプで、赤系統の機構とは別であることが示唆され、色覚理解のための一つの基礎結果と考えており来年度にかけてさらに発展させるつもりである。 (4)水平細胞を別の方向からも調べた。単離培養標本とパッチ電極を用いて通常の(光ではなく電流を介した)膜電位固定実験を行った。最終的には(3)のin vivoの場合と比較・関連させる目的で研究しているが、この過程で水平細胞にはNa-Ca交換機構とNa-K ATPaseが存在することを見い出した。これは細胞内【Ca^(2+)】と【Na^+】のケモスタシスの関連で意義あるが、発電性機構としての膜特性への寄与も今後はっきりさせておく必要がある。
|