研究概要 |
がん遺伝子産物に, 腫瘍を拒絶に導く移植抗原性があるかどうかを知ることは, がんの治療への応用を考える上で重要である. この研究では, vーsrcがん遺伝子産物にマウスのRous肉腫ウイルス(RSV)誘発腫瘍に対する移植抗原性があるかどうかを細胞工学・遺伝子工学の技術を応用して検討した. 1.vーsrcがん遺伝子とネオマイシン耐性遺伝子を組み込んだプラスミドをトランスフェクトした大腸菌をマウス線維芽細胞にプロトプラスト融合して, vーsrcがん遺伝子発現細胞c1ー8を得た. 遺伝子の発現はvーsrcがん遺伝子をプローブとしたノーザンブロット法および, vーsrcがん遺伝子産物p60に対するモノクローナル抗体を用いた免疫蛍光法によった. この細胞を不活化して免疫したマウスはRSV腫瘍CSA1Mに対して移植抵抗性を獲得した. しかしvーrasがん遺伝子を持つKirsten肉腫ウイルス誘発腫瘍に対しては, このような抵抗性は獲得されなかった. 2.vーsrcがん遺伝子とトリプトファンプロモーターを含んだプラスミドpSRC6×16を大腸菌にトランスフェクトし, p60を産生する条件で培養した. p60の産生は, モノクローナル抗体を用いたウエスタンブロット法によって確認した. このvーsrc発現大腸菌ならびに, この大腸菌で生物生産させた60KDの蛋白質で免疫されたマウスは, いずれの場合もCSA1Mの移植に抵抗性を示し, 腫瘍を拒絶するか生存日数の明らかな延長を認めた. しかしいずれの場合もKrsten肉腫ウイルス腫瘍に対しては移植抵抗性を誘導できなかった. 以上の結果より, vーsrcがん遺伝子産物は, マウスRSV誘発腫瘍CSA1Mに対する特異的移植免疫原性を持つことが示された.
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