研究概要 |
メチルニトロソブアニジン(MNNG)などのアルキル化剤の処理で生じる主要なDNA損傷だと考えられているO^6ーメチルグアニン(O^6ーMeG)の修復に関連して,本年度は主として以下の知見を得た. 1.大腸菌のメチル転移酵素遺伝子の部分的断片のヒト細胞内での発現 大腸菌のada遺伝子の産物であるメチル転移酵素には,活性部位が2個所あって,N末端側の活性部位でメチルホスホトリエステルを, C末端側の活性部位でO^6ーMeGを修復することができる. ada俗伝子の5′側を一部分取り除いて,O^6ーMeGの修復活性だけを持つ蛋白をコードするような分割遺伝子を作成して,これをO^6ーMeGの修復能のないMer^-のヒト細胞であるHeLaMRにトランスフェクションで導入した. 得られた形質転換クローンでは,予想通り非常に高いO^6ーMeGに対するメチル転移酵素活性が観察されたが,メチルホスホトリエステルに対するメチル転移酵素の活性は全く検出されなかった. これらの形質転換クローンは,MNNGによる細胞の致死,姉妹染色分体交換および突然変異の誘発に対して,親株のHeLaMRと比べると100倍近くも抵抗性を示した. 以上の結果は,ヒト細胞においても,O^6ーMeGが致死や突然変異の直接の原因となるDNA損傷であることを示している. 2.Mer^-のヒト移植腫瘍のアルキル化剤による選択的治療 O^6ーMeGの修復能を欠くMer^-のヒト腫瘍細胞と,修復能を有するMer^+の腫瘍細胞とをヌードマウスに移植し,アルキル化剤系制がん剤であるACNUを腹腔内に投与することによって腫瘍の増殖抑制を試みた. 至適濃度のACNU処理によって,3種類のMer^-細胞のすべてについて,腫瘍の完全な消失かまたは顕著な増殖阻害でみられた.
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