研究分担者 |
Syahbuddin アンダラス大学, 理学部, 講師
RUSDI Tamin アンダラス大学, 理学部, 講師
IDRUS Abbas アンダラス大学, 理学部, 講師
加藤 真 京都大学, 教養部, 助手 (80204494)
市野 隆雄 香川大学, 農学部, 助手 (20176291)
岡田 博 大阪大学, 教養部, 助手 (40089892)
甲山 隆司 鹿児島大学, 教育学部, 助教授 (60178233)
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研究概要 |
湿潤熱帯は, 多様な生物相, 複雑な森林生態系, 大きな生産量や速い物質循環の速度等で特徴づけられている. この生態系を構成する種の存在様式や進化(分化)の過程を明らかにし, 湿潤熱帯の生態系の基礎単位を形成する種の実体を解明することを目指す. 熱帯の生物相の多様性, 生態系の構造, 種の存在様式, 種分化のパターン, 進化の過程等の諸問題は, 熱帯域の野外調査の困難さからまだ不明な点が多い. 本研究は, 熱帯での種のあり方, その分化過程, さらには熱帯の生物群の進化についての総合的な研究を, 動物と植物の研究者が協力し, また分類・系統解析・生態などの諸分野を総合することによって明らかにしようとするものである. 湿潤熱帯における森林生態系と種分化機構について, 次の4つの側面からアプローチを試みた. (1)樹木や林床草本の分布や動態の解析.西スマトラ州に6ヶ所設置されている森林生態調査プロットにおいて, 樹木の動態や生長の調査.稚樹の分枝様式の比較を行なった. また.林床草本であるSchismatoglottsの分布や集団の動態と生長を追跡した. これらのデータは, 熱帯の森林生態系の空間構造や種間関係を知る大きな手がかりとなる. (2)種内・種間の遺伝題変異の解析 ツリフネソウ(5種)やMonophyllaea(2種とそれらの雑種)などの林床草本において, 染色体数を観察することによって, 種内構造や種間関係を分析した. また, 熱帯の樹木であるバンレイシ科植物の染色体数の調査も進められた. (3)林床草本の繁殖様式と送粉過程.植物の送粉様式は, 種分化を考える上で, 一つの重要な過程である. 巨大草木である野生バナナ(Musa属)2種の観察で, 花序を垂らして咲くM.halabanensisはコウモリによって送粉が行なわれていたが, 花序が直立して咲くM.salaccensisでは, ミツスイ科の鳥によって送粉されていることを発見した. 西スマトラ州で多様に分化している12種のツリフネソウ属植物のうち8種について送粉過程を調査した. そのうち7種が, 舌の長いケブカハナバチ科のハナバチ(Amegilla属)によって送粉されていた. このハナバチ類は多くの種があり, それぞれに種特異性をもってツリフネソウの花を訪花していた. (4)ウツボカズラの捕虫習性.ウツボカズラは, 消化液を満たした捕虫袋の中に虫を誘引して栄養分にする植物である. 西スマトラ州に分布する10種のウツボカズラにおいて, この捕虫袋の中に捕えられた, あるいはその中で生活している昆虫を比較調査した. 今回の調査結果は, 多様に分化した種群を有する熱帯多雨林の動態と構造を解明し, その中での種間の密接な進化的相互関係の一端を明らかにすることができた. しかしこの問題の解明には, 更に長期にわたる綿密な野外調査とデータ解析が必要なことも明らかである. 多彩な湿潤熱帯生物群の進化の様相を, 種を基礎単位として明らかにすることが必要とされている.
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