研究概要 |
日本産小哺乳類の系統分類は再検討されつつあるが, その為には隣国中国に生息する近縁種を直接比較検討することが必須条件である. 本研究は2つの目的がある. 一つは中国科学院の研究所及び主要大学にある小哺乳類の所蔵標本を精査し, 各種の形態的特徴と分布を調べることである. もう一つの目的はげっ歯類, 翼手類, ナキウサギ類の標本採集と生態調査である. げっ歯類では採集した標本により核型分析を行ない, ナキウサギ類は長期にわたる行動観察を行なう. 1)ナキウサギ調査(川道)青海省の高地草原(海抜3200m)に生息する2種のナキウサギの社会構造をほぼ把握した. クチグロナキウサギは100個体を捕獲, 個体識別用の耳環を装着して放ち, 行動観察をした. この種は夏から初冬まで家族なわばりを持っていた. ナキウサギ属の他種と異なり, 初冬まで平均6.6匹のグループで生活し, 家族全員がなわばりを防衛していた. 15グループのメンバーの加入, 消失を詳細に追跡できた. もう一種のカンシュクナキウサギは45個体を同様に識別し, 観察した. この種が野外調査されたのは世界初である. 社会構造は従来川道が調査した他種のナキウサギと同様に, 単独行動ペア型で,8月下旬に若い個体は分散していった. またカンシュクの母親が子供に哺乳するリズムを調べ, ウサギ科とは異なり1日に数回訪問して哺乳することがわかった. ナキウサギ属の哺乳はデータとして初めてのものである. 2)小哺乳類の所蔵標本の精査(小林, 金子, 前田)げっ歯類と翼手類で中国の研究機関に所蔵されている標本の精査を行なった. 所蔵標本は中国科学院の動物研究所及び西北高原生物研究所, 陜西省動物研究所, 陜西省衛生防疫所のものを用いた. げっ歯類はネズミ科を中心に行い, 約1500個体について, 各部位計測, 頭骨写真, 標本ラベルの写しを行なった. 日本産と関連の深い分類群に対象をしぼり, Apodemus,Eothenomys,Clethrionomys,Microtus,Alticola属を中心に行なった. 特に種名の混乱がみられるApodemus属は約1,000個体を測定できたので, 日本産個体との形態の比較がまたれる. 翼手類では182個体を同様に精査したが, ヒナコウモリ, オヒキコウモリ, キウガレラコウモリ, オオコウモリ各科にわたっている. 3)核型分析(小林)生捕されたネズミ類30個体の尾部を切断し, 培養液に浸して帰国. 日本で培養後に冷凍保存し, 核型分析を進めている. 総じて, 異なった3つのプロジェクトの各々が予想以上の成果をおさめることができた.
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