研究概要 |
東南アジアにおける癌の実態については, 国による生活様式の違いにより数多くの要因が関与しておるが, 癌の実体については総合的調査が行なわれていない. インドネシア, フィリピン, タイ, ビルマ, マレーシア等で直接, 剖検・生検診断の実態を調査することにより癌を新しい角度から捕える. このことは協力各国のためになり, 比較疫学的に癌の要因の究明にも役立つと考えられる. また全般的に癌を調査するとともに特に肝癌, 消化器癌等に重点をおき, 癌発生の要因について調査研究する. 昭和62年度はインドネシア,およびビルマにおいて癌の疫学と癌発生要因に関する調査を行った.インドネシアでは主として西部ニューギニアのジャヤプラ,メナド,西部ジャワのバンドンにおいて,ビルマではラングーンとマンダレーにおいて調査を行った.いずれにおいても十分な調査協力が得られた.ニューギニアに関しては,原住民とインドネシア人との間に癌の頻度が少し異なっていた.皮膚癌と悪性リンパ腫は肌色の黒い原住民に多くみられた.この地域では,各々の疾患の診断は臨床医師の診断に依存するところが多く,検査項目が少ない事,病理診断の不備が顕著であった.バンドンにおいては,パジャジャラン大学医学部の協力を得た.検査項目はかなり満足できるものであった.皮膚癌,血液癌,肝癌が多かった.肝炎B型ウィルスとアフラトキシンにつき調査し.HBs抗原陽性率12%の値を得た.アフラトキシンは日常使用する食用油中にも認め,アフラトキシンの摂取は避けられないものであり,血中アフラトキシンの測定では住民の約35%にみとめた.肝癌発生率は10万人当40人以上と推定された.調査中にこの地域では約70%の人が貧血であることがわかり,栄養の調査の必要性を感じた. ラングーン総合病院の癌統計によっては.男子においては肺癌が最も多く177例(全癌の13.5%),食道癌155例(11.8%),肝癌121例(9.2%),胃癌104例(7.9%).喉頭癌86例(6.6%),等が上位を,女子では子宮勁癌228例(21.2%),乳癌189(17.6%),肺癌85(7.9%),胃の純で,肺癌,上部消化管癌,性器癌が主要な位置を占めた.ラングーンでは,葉巻たばこや,ビンロウジュの実を噛む習慣が重要な因子と考えられた.ビルマでは病理標本設備は整備されていたが,感染症がより重要で,癌への対策は無に等しいことが明らかになった.
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