研究概要 |
今年度は昭和63年度に計画している上記課題研究の予備調査を行う. 本調査の目的はボリビアの異なる高度(4000ー300m)に居住する複数の集団を対象とする調査研究によって, 環境資源利用をめぐる行動様式, 文化的特徴, およびその生物学的基盤を詳細に分析し, 行動適応と生物学的適応の機序を明らかにすることにある. 予備調査の目的は, 高地および低地の調査対象候補地域を訪問し, 調査村落の選定, 調査者の受け入れ体制の確立, 本調査の具体的計画・立案に必要な情報を収集することにある. 選定した村落については世帯単位の簡単なセンサス台帳を作成する. また, 調査が円滑に実施できるよう調査対象者にできる限り本調査の主旨を説明する. 今年度は本調査における調査対象候補村落を選定するために, チチカカ湖周辺地域(ラパス州), ラパス州南部高地の乾燥地域, およびラパス州北部低地(アルトベニ地域・一部ベニ州も含む), 3地域(図1)においてそれぞれ約7村落を訪問した. 各村落ではコレヒドールなど村の指導者と面談し, 本調査の目的・内容を説明し当該村落において調査者の長期滞在および調査内容に問題がないかどうかについて意見を交換した. どの村落でも受け入れは極めて良好であり, 各村落において数世帯を戸別訪問し家族全員の身体計測および頭髪サンプルの収集を行うことが可能であった. 調査内容と目的に照らし, チチカカ湖周辺地域ではSanta Rosa de Taraco(農牧および漁労を生業とする:標高4000m), 高地乾燥地域ではWariscata(アルパカ・リャマの遊牧に依存し, 農業は冷涼のためできない:標高4500m), 低地ではParos Blancosを中心とするアルトベニ移住地(新旧様々な移住地が創設されている:0ー30年)を本調査の調査地として最も適当であると判断した. 当初予定はしていなかったが出生力の予備調査として, コパカバーナ(ラパス州:標高4000m), カラナビ(ラパス州:標高300m), およびマルコランチョ(コチャバンバ州:標高2500m)を対象地域とし, 質問票による妊娠歴面接調査を実施した. データは現在分析中であるが, 高地における出生力が予想外に高いこと, 乳児死亡率が高いことによって生存児数が減少するために従来の研究において高地の出生力が過小に評価されていた可能性が示唆された. 現地での受け入れ状態がきわめて良好であったこと, およびボリビアの関係諸機関における意見交換において彼らが抱えている現実的な問題を改善するための基礎調査として本調査に対する期待が高いので長期的な研究計画の一環として今後の調査を進める予定である.
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