研究概要 |
北極海沿岸地域に広範囲に存在する地下集塊氷の実体を雪氷学的, 地球化学的及び地質学的手法を駆使して総合的に把握し, その成因, 生成過程を明らかにするとともに, それが形成された時期, 環境を永久凍土と関連づけて明らかにする. そのために, 夏期に, 地下集塊氷を内部に含む段丘及びその周辺部の地質調査, 地形測量を行い, 堆積, 融解崩落, 層位, 成層構造から, その生成年代に解明を試みた. 又, 冬期に, 地下集塊氷のボリーングを行いコア資料を採集して結晶構造, 化学成分分布を解析し, 成因, 生成過程を解明した. 更に, インパルスレーダーを用いて氷体の規模, 内部構造の探査を行って, 氷体とその上, 下部の氷久凍土との関連をあきらかにした. これらの結果を総合して, この地域の氷河期から間氷期を経て現在に至る水収支と環境変動の関連の解明を試みた. 昭和61年度に行われた調査の際に, 得られた資料を解析した結果, 以下の諸点が明らかとなった. 段丘付近の精密再測量の結果, 氷体を内蔵する段丘は, 氷体の融解崩落, 波浪による侵食などにより, 予想外の速い速度で地形変化が進行していることが明かとなった. 又, 同様の変化過程が過去に段丘周辺の各所で進行した形跡が明瞭に残されていることが明らかとなった. ボーリングにより得られた氷コア資料に含まれている泥層内の有機物の炭素同位体の測定は, 微量のため従来分析不可能であったが, 名古屋大学水圏科学研究所のタンデム型質量分伏測置により測定が可能となった. その結果, 氷体がウイスコンシン間氷期(約2万年)に生成されたものであることが明らかとなった. これらの結果は, 我々が提出している氷体埋没起源説を強く支持するものである. 昭和63年度に予定されている調査では, 夏期には, 精密測量を周辺地域にまで拡大し, 段丘の再測量と併せて地形変化の過程を明らかにする. 冬期調査では, インパルスレーダーによる氷体の規模, 形態, 内部構造の連続性, 更に氷体下部の地下構造についても調査を進める計画である.
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