研究概要 |
本調査研究ではブラジル南東部の都市の巨大化と首位性拡大の様態と要因を学際的に解明しようとし, 一応の成果を得た. まず, ブラジルの国内人口移動の諸特徴を明らかにし, そのあとで, 首位都市, その大都市圏, あるいはそれが核となって拡大した複合大都市圏の人口面での首位卓越性の問題を考察した. サンパウロ大都市圏の首位性はいかなる尺度からみても拡大の傾向にあるが, その首位性は他のラテンアメリカ諸国の場合と比べて低い. しかし, 首位都市の範囲を近隣の都市網を含めた複合大都市圏にまで拡大した場合, それが全国に対して示す首位性は相当に高いものとなることが明らかとなった. 首位都市の範囲をどのように画定するかは今後の研究の詳細な吟味を経た上でなされることに研究グループでの合意が得られた. 次いでブラジルの都市化が, (1)都市人口増加率が, きわめて高いこと. (2)南東部メガロポリスの集中度が高いこと. (3)都市化がスラムの拡大を伴なうことなどの特徴を持つことを明らかにし, これらと経済発展, 特に工業化のパターンとの関連を明らかにした. さらに, 交通運輸面における南東部巨大都市への集中が明らかにされた. 航空旅客数からみると, 1980年代に入ってサンパウロがリオデジャネイロを凌駕し, この2大都市へ乗客が著しく集中する. この2大都市から全国諸都市に対して航空路網が形成され, サンパウロとリオデジャネイロ間の結合も強固なものである. 上記のような2極構造に対して, 近年, ブラジリアへの乗客数が著しく増加している. さらに, 航空機輸送の遅れていた中西部地方や北部の諸都市にも乗客数が増加しつつある. このような現状を考察すると, ブラジルの地域間結合の特性はサンパウロ・リオデジャネイロの2極構造から, 多極構造へと移行しつつあるといえよう. また, ブラジルの都市史の中でリオデジャネイロ市の発展を位置づけ, 同国南東部の都市化過程の特質とその全国的意義を明らかにした. リオ市は, 植民地時代前半には, 軍事基地と商業港として, 植民地時代後半には, 内陸のミナス金産地帯の外港としての都市機能を発揮し, 1763年からは, 植民地の行政中心都市として, また, ブラジルの独立後は, 1960年まで首都として, また工業センターとして特別の重要性を持つに至った. 同市は, 現在においてもサンパウロに次ぐ全国第2位の大都市であり, 両市の大都市圏の接合によって南東部メガロポリス形成の可能性も大きいと考えられる. 最後に, ブラジル南東部におけるメガロポリス農業の特徴を明らかにするために, その中心的存在であるサンパウロ州の農業地域と農産物流動について検討を行った結果, 以下の点が実証された. サンパウロ州は農産物の生産および全国的流動においてブラジルの中心的存在をなし, 従って高い首位性を有している. 同州はブラジル最大の大都市消費市場を抱えながらも, 青果物を全国的に移出する一方, 州内部では各農業地域からサンパウロ市への青果物の集中的流動パターンが顕著である. こうした農産物流動には, 農業協同組合や中央卸売市場が重要な役目を果たしている. また農業生産の地域分化が明確であり, こうした重要性は四つの地域の比較検討により具体的に提示された. さらに農産物流動および農業生産をめぐる日系農業の性格についても把握することができた.
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