研究概要 |
本海外学術調査は, フィリピン, インドネシア, スリランカの三国における地方都市社会の実態を, 文化人類学の方法によって, 明らかにしようとして行なわれたものであり, 各国において特徴的な地方都市を選び, そこにおける文化と社会関係を, さまざまな視点からとらえ, 従来未開拓の研究分野であった地方都市社会を照射しようとした. 調査は, 現地における協力研究機関, 研究協力者, 研究補助員の支援のもとに, きわめてすみやかに行なわれ, いかなる調査上また滞在上のトラブルも発生することなく, 無事成功裡に行なわれた. 現地研究機関および研究者との研究交換も活発にまた生産的に行なわれ, 接続して良好なる関係を持ち続けてきている. 実態調査の実施は, 昭和58年度の予備調査の後, 昭和59年度の第1回調査, 昭和60年度の国内における資料整理と研究会と報告書作成, そして, 昭和61年度の第2回本調査と昭和62年度の国内における資料整理と研究会および5ヶ年の総括報告書作成, という形で行なわれた. この間, 本調査に関連して, 参加メンバー6名による研究活動がきわめて活発に行なわれている. 学会活動として, 1.昭和59年度日本民族学会研究大会(於, 国立民族学博物館)において, 「東南アジア地方都市社会の研究ー調査報告I」と題して, 参加メンバー, 6名によるセクション部会研究発表が行なわれた. 2.昭和61年度日本民族学会研究大会(於, 広島大学)において, 「東南アジア地方都市社会の研究ー調査報告II」と題する小部会研究発表が行なわれた. 3.昭和62年度日本民族学・人類学連合大会(於, 京都大学)において, 「東南アジアにおける文化の再編成過程ー調査報告III」と題する学会シンポジウムが参加メンバー6名によって行なわれた. また昭和60年度には, 「地方都市社会の研究ー理論と実際」と題する研究会(於, 大阪大学人間科学部および東大東洋文化研究所)を6回にわたって行ない, 活発な研究討議を, 本調査参加メンバーを中心に, 他の研究分野の研究者の参加も含めて行なった. さらに, 昭和62年度には「都市研究の可能性」と題する研究会(於, 大阪大学人間科学部および東大東洋文化研究所)を6回行なった. 他の研究分野の研究者も参加して, あくまでも「東南アジアにおける地方都市社会の研究」の実際をふまえて, 過去5ヶ年の総括的な問題整理と今後の研究可能性を討議した. この間に, 研究成果の一部として, 『聖地スリランカ』(青木保編, 日本放送出版協会)が上梓されている. 個々の研究調査参加メンバーによる個別的な研究発表および論文出版も活発に行なわれた. また本調査参加メンバーによって, 本報告とは別に現在『都市と市場ー東南アジア地方都市社会の研究ー』(岩波書店, 近刊予定)が準備されている. なお, 今回の調査総括にかかる報告書(昭和62年度)は, 東南アジア地方都市の都市像, 都市のプロフィールと, 文化人類学的な視点から提示するものである. 都市研究において, 都市のもつさまざまな社会・文化的側面に出現する個別事象は, 調査および考察の対象として, 複雑多岐にわたっている. 個別事象の一部(本調査ではとくに市場と地方都市の都市性)については, 近刊予定の研究書で明らかにされるが, ここでは何よりもいまだ学問的および一般的にほとんど何のデータもなく, まったく白紙状態にあるといってよい, 「東南アジアにおける地方都市」の全体的なイメージを, 各参加メンバーによる実態調査に基づいた「都市像」として提出することにした. ここに提示された「都市への視座」と五つの都市のプロフィールは, 東南アジアの地方都市というものをはじめて具体的なイメージとして示すものである. いずれにせよ, 東南アジアにおける地方都市いや都市社会の実態調査はまだほとんど端緒についたばかりであり, 今後さらなる実態調査と綿密なる検証そして都市の比較研究が必要である. 地方都市社会及びそれとの関連における大都市の研究は, まさにこれからも積極的に続行し, 研究のダイナミックな展開を期待される研究課題であり, 東南アジア全体における変化の加速された状態をみるにつけ, いまや緊急課題であるといってもよいと思われる. 本調査研究グループは, これまでの研究実積をふまえて, これからの研究の発展を期して, この課題に応えたいと決意するものである.
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