研究概要 |
昭和61年度のタイ現地調査で採集された海産動物は, 魚類約2000点,軟体動物約2000点,原索・半索動物約500点,棘皮動物約200点,甲殻類約1000点である. これらの資料は一部を除き標本の作製を完了し, 研究に着手できる状態になっている. 現在,それぞれの動物群の専門家により研究が進められており,研究が完了したものから論文として発表しつつある. 研究の段階として種の整理の状態から系統分類の研究まで, 分類学的研究は,扱う動物群によって研究方法が異なる場合がある. したがって,ここでは分類群ごとに分けて研究成果の概要を報告する. 魚類:これまでに300種以上が同定・分類された. 最夛種の科はハゼ科であった. ハゼ類はタイ湾側の砂泥底やマングローブ帯,インド洋側のサンゴ礁など,いたるところに生息しており,タイでの新記録種,未記載種を含めて60種近くが採集された. ソンクラの海岸で採集されたマツバラトラギスは,これまで日本とタイ湾から2度報告されただけの稀な種で,その生態は不明な点が夛かったが,今回の調査による浅海の砂底に生息することが明らかになった. 軟体動物:特色のある貝類について,(1)日本南部とタイで同種か,ごく近縁なものが分布し,分類学,生物地理学的に興味深い種類として,イヨスダレガイ,オンドリハマグリ,タイワンハマグリ,(2)生態学,分類学的に興味深い熱帯西太平洋の固有種としてオカナミマガシワガイ,カタヨリエガイ,(3)インド洋の固有種としてのベンガルイモガイ,コッパモシオガイ,キグチホラダマシ,が採集された(松隈,1988a,1988b,印刷中). 原索・半索動物:タイ湾側で採集されたホヤ類・形態学的研究がなされ,17種が同定された. このうち15種がタイ湾からの新記録種である. また,17種のうち9種はこれまで日本からも見つかっている. 注目すべき種としてはPolyandrocarpa属Polyandrocarpa亜属の一種がある. 本種は生殖腺の終端に接して奇妙な無構造の一塊をもつ点で他に類をみない. 組織化学的および電顕的検討を加えた結果,本種は新種の可能性が高い. 棘皮動物:ヒトデ類は8科11種が採集された. 現在,種の同定中である. 甲殻類:タイ国の海産十脚甲殻類は現在562種で,そのうちタイ湾側から359種,インド洋側からは352種でほぼ同数の種類が知られている. 両海域の共通豊は152種で,全種数の22.2%に相当する. 今回の調査で約150種が採集され,タイ十脚甲殻類相の約27%を採集したことになる. 同定作業がまだ進行中で,各地域の種数ははっきりしないが,次の種類はタイ国からの初記録である. Thacanophrys halimoides,Doclea calcitrapa(ケブカツノガニの一種),D.Japonica(ケブカツノガニ),Jonas distncta formosae(ヒゲガニの一種),Leueosia elata(コブシガニの一種),Thalamita admete(フタバベニツケモドキ),T.oculea(オクレベニツケガニ),T.tenuipes(ベニツケガニの一種),Etisus splendidus(オオアカヒヅメガニ). タイ産562種のうち260種が日本との共同種であるが,調査が進むにつれて,日本との共通豊は増加すると考えられる. タイの海産動物相についてのこれまでの研究は比較的に少なく,したがって,今回の研究の大半は採集した標本を同定し,タイの海産動物相を明らかにすることについやされた. 本研究の最終目的である南日本の海産動物相の起源を探る研究のためには,タイ以外にフィリピン(第二次調査計画),インドネシア(第三次調査計画)での調査を待たねばならないが,今回の調査・研究により,タイの海産動物相が以前にも増くて豊かであることが明らかになった.
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