研究課題
海外学術研究
制癌剤を中心とした新しいドラッグデリバリーシステムの開発と臨床応用を共通の課題として研究を開始した。この目的に温度感受性リポゾームを採用し、化学塞栓療法とハイパーサーミアを併用してより効率の高い剤型設計を試みた。以下得られた成果の概略を示す。(1) 温度感受性リポゾームの基礎的性質41〜42℃に相転移点をもつリン脂質としてジパルミトイルフォスファチジルコリンを選び、種々の方法でリポゾームを調製した。REV法(逆相蒸発法)で調製したリポソームが最も温度感受性に優れ、また薬物の封入効率が高いことから、以下の実験ではリポゾーム調製はすべてREV法によった。(2)肝癌モデルの作成SLCウイスターラット皮下で継代培養したWalker256腫瘍をラット肝左葉に移植した。移植5日目以前では外からの腫瘍確認が困難で、また生存期間等を考慮して7日目より治療開始が最適であると判断した。(3)フリーのアドリアマイシン(ADM)投与後の体内動態フリーのADM(2.35mg/kg投与量は以下すべて同じ)動注後の体内動態を調べた。投与2時間後の腫瘍中のADM濃度は8ng/g組織で、肝組織の2倍強、心臓の6倍、十二指腸の1/3であった。血中濃度は15ng/mlであった。8時間後にはいずれの組織中の濃度も低くなり、腫瘍中では2時間後のそれに比較して約1/6に減少した。血中濃度は5ng/mlであった。(4)リポゾーム封入ADM(L-ADM)投与後の体内動態L-ADM動注8時間後の組織中ADM濃度は、組織によってフリーのADMと挙動を異にした。腫瘍中のADM濃度は、8時間後12ng/g組織と高い値を示し、フリーADM投与群の10倍であった。肝組織中の濃度も比較的高く、フリーADM投与群の4倍であった。一方、心臓に対してはフリーADM投与群と同じレベルにあり、ADMの心毒性という副作用面から考えてリポソーム剤型は、ADM投与の好ましい投与形態であるといえる。(5)加温の効果L-ADM投与2時間後にサーモトロンにより腫瘍近傍を6分間41〜42℃に加温し、血中のADM濃度および8時間後のADMの体内分布を調べた。加温30分後に血中ADM濃度は最大に達し、その後漸減した。最大時の血中濃度は加温直前の約3倍で、投与2分後のそれに近かった。フリーのADM投与群の約10倍であり、肝動脈中に留まっていたリポゾームから加温によりADMが放出され、その一部が血流中に現れたと考えられる。8時間後のADMの腫瘍中濃度は、加温L-ADM群では24ng/g組織で、非加温L-ADM群のそれの約2倍、フリーADM投与群の20倍であった。逆に肝組織中では非加温L-ADM群より低い傾向を示し、肝動脈中に留まっていたL-ADMから加温により放出したADMが、肝組織よりも腫瘍により集積し易いことを示唆する。これは、フリーADM動注によりADMが肝組織よりも腫瘍により集まり易い傾向を示すことと一致する。(6)治療効果薬物投与5日後の腫瘍成長率(薬物投与後の腫瘍体積/投与前の腫瘍体積)は、L-ADM投与群ではコントロール(生食投与群)の1/8であった。(7)結論リポゾームによる栄養動脈塞栓、薬物の局所集積、持続化が可能である。さらに温度感受性リポゾームを用いることにより外部から薬物放出制御が可能であり、ハイパーサーミアと組合せることにより、極めて有用な剤型であるといえる。
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