研究概要 |
心筋興奮収縮連関は, 単離細胞あるいは乳頭筋標本において研究され, 種々の成果が得られているが, 従来の方法は, 摘出灌流心標本への直接適用は不可能であった. 本研究は, 最近開発された多核種NMR法を応用して, 灌流心標本レベルでの興奮収縮連関の解析法を確立せんとするものである. 特に, 冠循環の障害に基づく虚血性心疾患での興奮収縮連関の異常の解析は, 現在, 虚血心の疑似モデルにおいてか, 間接的検討に留まっており, 本研究では, 虚血心での直接的評価を達成したいと考えている. 今年度においては, 心筋の興奮収縮連関における要素のうち, 細胞内Ca濃度と, 最大Ca活性化張力の2つについて, 摘出灌流心標本における検討を行った. 灌流心標本における細胞内Ca濃度の測定については, Caと結合する試薬5F-BAPTAと弗素核磁気共鳴法を組み合わせた方法を確立し, これにより, 心周期内の細胞内Ca濃度の変動(Ca transient)の測定を可能とした. 今後は, 現在問題となっている虚血・再灌流後の心筋内Ca動態の観測にこの手法を適用し, 問題の解明に役立てたいと考えている. 一方, 灌流心における最大Ca活性化張力の指標としては, ryanodineを用いた心筋の強縮における左室発生圧, すなわち, 最大Ca活性化圧が有用であることを既に報告しているが, 今年度においては, この最大発生圧に影響する要因について検討を行った. 心筋細胞内の無機燐酸と水素イオンの収縮蛋白に対する影響として, 両者とも最大発生圧を低下させるが, 水素イオンはさらに, 収縮蛋白のCaに対する感受性をも低下させることが明らかにできた. また, イオン強度・浸透圧が最大発生圧に及ぼす慶響についても, 一部検討を開始している. 以上の結果はいずれも, ジョンズ・ホプキンス大学医学部での共同研究による得られた成果であるが, 今後, これらの成果を国内において発展させるためにはいくつかの解決すべき問題がある. その1つは, これらの手法にはある程度のノウハウがあるため, 技術を正確に移植するためには, 日米双方の緊密な接触が必要であり, この達成のため, 次年度においては米国側への出張のみならず, 日本への研究者の招へいが不可欠である. また, 両者で使用する実験動物に異なるため, 薬剤等に対する反応の種差について, あらかじめ検討を行っておく必要がある. この点についても, 次年度において系統的に検討したいと考えている.
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