研究課題
国際学術研究
1.キニノゲナーゼ多様性成分の糖鎖構造の解析今回世界的に全く新しい解析方法として、FAB-MS(Fast Atom Bomberdment Mass Spectrometry)法を用い、微量サンプルについて効率よく糖鎖構造を解析する方法を確立した。この結果、ブタ膵臓β-キニノゲナーゼーA(1)、同ーB(2)、ブタ顎下腺(3)、ヒト尿中(4)各キニノゲナーゼの間で、糖含量のみならず糖鎖構造の多様性の相違が明らかに認められた。すなわち、N-グリコシド型糖鎖において、各キニノゲナーゼの糖含有量は、(1)が5%(w/w)、(2)が10%(w/w)であったのに対し、(3)、(4)は共に約25%(w/w)であった。この相違はN-グリコシド型糖鎖結合部位が、(1)は1ケ所、(2)は2ケ所、(3)、(4)は共に3ケ所において結合していることが認められた。次に、これら糖鎖の構造に関しては、キニノゲナーゼに結合する糖鎖は、その約90%が複合型であり、約10%がハイマンノース型糖鎖であることがわかった。このうち、複合型糖鎖の枝別れについては、各キニノゲナーゼ共に3〜4本に分岐した構造が大部分であったが、末端シアル酸、それに結合するガラクトース、還元末端のN-アセチルグルコサミンに結合したフコースの各結合様式については、各キニノゲナーゼの間で異なる多様性が認められた。2.膵臓癌患者尿中キニノゲナーゼの解析膵臓癌患者尿から精製したキニノゲナーゼについてN-グリコシド型糖鎖の構造を解析し、健常人の場合と比較した。その結果、酸性度の強いオリゴ糖鎖が大部分を占め、健常人の場合とは全く異なるパターンを示したことから、癌性時にオリゴ糖鎖合成酵素系に変化が生じていることが示唆された。3.ブタ膵臓プロ型キニノゲナーゼのプロセッシングブタ膵臓プロ型キニノゲナーゼの単離に成功し、その活性化機構を明らかにした。即ちプロ型キニノゲナーゼはトリプシンにより、α型キニノゲナーゼに活性化された後、autolysis loop部分のN末端側がキモトリプシンにより、またC末端側がトリプシンにより切断されそれぞれCβ型、Tβ型各キニノゲナーゼに変換され、さらに、autolysis loop部分のぺプチドが遊離されると、自己融解した膵臓から得られるAβ型キニノゲナーゼに変換されることが明らかとなった。なお、遊離するautolysis loop部分のアミノ酸配列は、Lys-(Asn)ーHis-Thr-Lysであり、Asn結合型糖鎖を有することが考えられた。4.ヒト尿中キニノゲナーゼ多様性成分解析のための特異的高感度検出法の開発ヒト尿中キニノゲナーゼの多様性成分を解析するための前処理も容易で泳動操作も簡便かつ高感度(fmolレべル)なセルロース・アセテート膜等電点電気泳動法を開発した。即ち泳動後、抗ヒト組織性キニノゲナーゼ抗体を用いた免疫染色法により組織性キニノゲナーゼ多様性成分を特異的に検出する方法を考案した。現在、本法を用い各種病態尿中の組織性キニノゲナーゼの多様性成分を解析中である。5.抗ヒト尿中キニノゲナーゼモノクローナル抗体を用いた酵素免疫測定法の開発とその応用精製したヒト尿中キニノゲナーゼを抗原としてBalb/cマウスに免疫して得たモノクローナル抗体と、従来作製しておいたポリクローナル抗体を組み分わせたヒト組織性キニノゲナーゼの酵素免疫測定法を開発した。現在本法の特異性、感度等の基礎的検討を行なっており、これらの検討の後、膵癌、急性膵炎、虚血性心筋症など従来組織性キニノゲナーゼの関与が想定されていた病態の解析を行なう。6.腎臟キニノゲナーゼの産生・分泌調節因子の解析1)ラット腎臟より、微小解剖法、密度勾配法を組み合わせて接合尿細管を単離した後、コラーゲン処理プレート中で培養し増殖させることに成功した。現在キニノゲナーゼ産生細胞を単離、培養中であり、今後本細胞を用いてキニノゲナーゼ産生・分泌の調節機構を解明する。2)BS-C-1、CKT-1、VMRC-RCW、VMRC-RCZ、Vero等腎臟由来の系代培養細胞においてキニノゲナーゼ産生・分泌因子を解析した結果、Veroにおいて、アルドステロン、トリヨードサイロニンでキニノゲナーゼの産生・分泌量が亢進することが明らかになった。
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