研究課題
国際学術研究
形状記憶合金は、21世紀の人類にとって有用な材料の一つとして注目を集めている。しかし、そのうちで最も高性能とされるチタン・ニッケル合金でさえ、100℃以上の温度では性能が劣化してしまって使用できない。本研究では、β相CuーAlーNi合金にMn、ならびにTiをそれぞれ適量添加することによって、合金の熱間加工性と熱安定性を改良し、最高使用温度を200℃まで高めることに成功した。これにより、形状記憶合金材料の自動車産業・電気産業などへの応用開発が進むことが期待される。加えて、新素材分野での日欧共同研究の具体的な例として各国研究者の注目を集め、わが国の国際学術研究投資への熱意を示すうえでも、一定の貢献があったと思われる。一般に、β相CuーAlーNi系形状記憶合金は熱間・冷間ともに加工性がきわめて悪く、同類のβ相CuーZnーAl系形状記憶合金にくらべ、その実用性ははるかに低いとされている。けれども、CuーAlーNi系合金は、強度、熱安定性、耐食性などの点では、CuーZnーAl系合金より、はるかにすぐれれているという特徴がある。加工性の改良に成功しさえすれば、将来、実用化の見込みは充分にあるものと考えられる。このような見地から、本研究では、合金のAl含有量を通常の約14%から約12%にまで減少させた。これにより、従来のβ相CuーAlーNi系合金で、熱間加工中にしばしば直面した、きわめて脆い析出物γ_2相の発生とそれにともなうインゴットの破壊などの欠点を除去し、合金の熱間加工性を大幅に改善することが出来た。同時に、このようなAl含有量の減少はマルテンサイト変態温度の上昇をもたらし、その結果、形状記憶動作温度を、従来の約40℃から、125℃まで高めることができた。これにともなって、本合金の最高使用温度は飛躍的に上昇する結果となった、強度については、CuーAlーNi系形状記憶合金は、元来、CuーZnーAl系形状記憶合金に比べてはるかに高い強度を持つことが知られているが、本合金の場合、引張強さは約100kg/mm^2にも達する高い値が得られた。本合金の標準組成として、11.88%Al、5.06%Ni、2.01%Mn、1.01%Ti、rest Cuを決定することが出来た。この合金のマルテンサイト変態温度は、上述のとおり約125℃であった。この合金は最高使用温度が、従来の合金とくらべてはるかに高く出来る特徴があった。たとえば、200℃に於ける長時間時効にともなうマルテンサイト変態温度の挙動を比較すると、この合金は同じ変態温度を持つCuーZnーAl系合金の数倍以上の長時間にわたり変態温度が一定不変で、その後の変動幅も、はるかに少ないことなどが判明した。現在のところ本合金の実用化には、なお検討の余地がある。問題点としては、主として冷間加工性の悪さが挙げられる。その改善は容易なことではないが、なおいくつかの有効な材料学的手法による改善策が残されていると思われ、その成否が今後の開発の鍵を握るものと期待される。
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