研究概要 |
TICT系化合物の特殊の場合である9.9′-ビアントリル及びその一方のアントラセン環に弱い置換基を入れてわずかに対称性をくづしたものについて, 1-プロパノール, 1-ペンタノール等の高粘性アルコール中で, 溶媒和過程をおそくした系について, 10ピコ秒レーザーホトリシステムによる時間分割過度吸収スペクトル及びピコ秒ストリークカメラによる時間分割蛍光の測定によって分子内光誘起電子移動の速さを調べた結果, 1-プロパノール中ては, 9.9′-ビアントリルと10-クロールー9.9′-ビアントリルの電子移動の速さは殆ど同じであるが, 1-ペンタノール中では明らかに10-クロールー9.9′-ビアントリルの方が速いことが分かった. すなわち, これらの分子内電子移動過程の速さは, 溶媒に特有の誘電緩和時間だけによって決まるのではなく, 溶質の電子構造が若干異なるために, 溶質-溶媒間相互作用状態が最初から少し異なることによっても影響を受けるものと考えられ, 9.9′-ビアントリルだけでなく他のTICT化合物や分子内エキサイプレックス系の時間分割蛍光測定で, 溶媒の誘電縦緩和時間τ_Lよりも速い電子移動過程を示すものがいくつもあることが分かった. また電子移動のエネルギーギャップ依存性が電荷分離と電荷再結合反応で異なることに対して先に提出した理論の厳密な一般論をまとめあげた. まここの理論では, 電子移動により生成, 消滅するイオンと強く相互作用する接近した極性溶媒の層では誘電飽和が起っていることを仮定しているが, この問題に関しMonte Carlo法によるシミュレーションを行い実際に誘電飽和が起っていることを示した. さらにCW/100フェムト秒レーザーシステムを設置して光学回路を組み立て, 発振を行い, サブピコ秒時間内分割光測定を行うのに十分なだけのエネルギーの数100フェムト秒パルスが発生していることを確かめ, 予備的な分光測定を行った.
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