研究概要 |
表面電離型質量分析計のイオン化電源部と計測部一式が購入され, 既有の真空系部と制御計測器一式と接続され, 完全に整備された. 岩石鉱物中の微量成分Ba, Sr, U, Th, REEの定量とSr, Nd, Hfアイソトープ比測定を行なうことが可能となった. 上部マントルと地殻下部物質の移動と変化について次のいくつかの新知見が得られた. 西南日本弧, 日本海側に出現するアルカリ玄武岩中の上部マントル〜下部地殻由来捕獲岩の微量成分を調べると, 超苦鉄質岩はあまりにも量が少なく定量できない. しかし苦鉄質岩の規格化インコンパティブル元素パターンはいづれも島弧型を示し, 明確に母岩のものとは異なる. つまり上部マントル〜下部地殻は島弧条件下で形成された. 同地域のアルカリ玄武岩, ベイサナイトやネフェリナイトはいづれも大陸型の規格化インコンパティブル元素パターンを示し, 一方それ以前に活動したショショナイト系列の火山岩類は島弧〜大陸縁型のパターンを示す. つまり過去2千万年の間に西南日本においてもテクトニクスに大きな変化があったことを示す. 硫黄島と北九州唐津付近の粗面岩は両者の斑晶・石基鉱物組合せと鉱物の化学組成と主成分元素組成はお互いに極めて類似し, 区別や識別することは不可能である. しかしながらそれらの微量元素を測定し, 規格化パターンを比較すると, 硫黄島のものはBaとSr正異常, Nb負異常を示し, 島弧型であることを表わし, 一方唐津のものはよりインコンパティブル元素側へと増加し, 異常を表わさず, 大陸や海洋型の性質を示す. これらの事実は上部マントルと主成分元素はいづれの地域も比較的均質であるが, 微量元素のうち, インコンパティビリティーの高いものは極めて不均質であることを示している. この原因については現時点では判らず, 今後に残された大きな課題の一つである.
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