研究概要 |
特定研究「地球内部」理論班の最終年度はケイ酸塩結晶および融体の分子動力学計算に関して全力を傾けた. 松井正典らはMgSiO_3系(結晶と融体)に対するポテンシャルMAMを導き, さらにこれを改良した. MAMは, ケイ酸塩についてかつて得られた最良の経験的ポテンシャルと評価できる. 一方塚田・常行・松井(義)は, SiO_4, Si_2O_7クラスターのポテンシャル表面をパラメタ化して, SiO_2の事実上あらゆる多形を再現できる非経験的ポテンシャルを発見した. この仕事は, SiO_2における力の場が二体中心力モデルで表現され得ることを示した点, および二体中心力モデルが意外な表現能力を持っていることを示した点において物理学的に重要であり, ひいてはケイ酸塩の二体力による分子動力学計算に肯定的な希望を与えるものである. 6配位のSiを持つ化合物におけるバルクポテンシャル的アプローチの目的で出発したFLAPW法によるSiO_2高圧多形の研究は, 松井(義)と松井(正)よって予言された超高圧安定相, およびルチル型相(既知のため標準を与える), ホタル石型の3構造について寺倉によって進められ, 予言された構造がたしかに安定であるとの結果を得た. この詳細は目下解析中である. 分子動力学計算のアルゴリスムについては, 松井(正), 岡田らによって従来のミクロカノニカル集合に対するものにかわる, より現実的なカノニカル集合に対するものが導入され, ケイ酸塩系に好適なプログラムの整備がほぼ完了した. これによって, 熱力学諸量を分子動力学計算から導く道が開拓されたことになる. 本研究は, 地球科学者と物理学者との共同研究がいかに生産的かの実例をなすものである. 計画年次終了後もこの方向の一層の発展を計画している.
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