研究概要 |
日本語句構造文法の構築・開発を行った(以後JPSGと略す). JPSGを他の言語理論, 特に変形文法と比べると, その特徴は, 句構造木における一つの枝分かれそれぞれに対する局所的制約だけを記述することで, 言語現象を説明することにある. これは言語学上のみならず, 計算機で自然言語を処理するのに多大なメリットを与える. しかしここで問題となるのは, 変形文法学者が主張するような一見局所的制約としては記述できない長距離依存現象の扱いである. 前年度までに開発したJPSGの枠組に基づき, 今年度は日本語と英語における長距離依存現象の説明を試みた. 日本語の長距離依存の例として, 再帰名詞「自分」の束縛の例を取り上げた. 「自分」は一般にその文の主語に束縛されるが, 「自分」が埋め込み文中に現われる場合はその文の主語のみならず, 主文の主語とも束縛されうる. しかも, 同一文中に「自分」が二個以上現われた場合は, 一般に同じ対象に束縛される. このような現象をJPSGで扱うため, refl束縛素性と主語素性brflを設け, 一つの素性共起制約を考えた. そしてそれにより, 運用論の影響を受けない場合であれば, ほとんどの現象が説明できた. また, 計算機上での検証も行った. 英語における長距離依存はJPSGでは束縛素性の存在と, その伝搬に関する原理によって扱われる. 今年度取り組んだのは, 変形文法で言うところの「島の制約」の記述である. 英語ではwh文や主題化文の場合, wh句や主題は深く埋め込まれた述語の補語と関係づける(束縛)ことが知られているが, 関係節や主語からは一般に不可能である. これを「島」と変形文法では呼んでおり, 解くべき問題として考えられている. JPSGでは, 補文化原理という, 主題化構造のような局所的句構造で成立する原理によって説明を行うのに成功した.
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