研究概要 |
前年度までの研究成果を踏まえ, 今年度は吸着媒としての多孔性バイコールに微小量のNi酸化物を担持, その上に吸着したケトンの光化学反応性を検討した. バイコール上にNi酸化物を担持させると, Niイオン担持量の増加とともにケトンの光分解反応の収率が著しく増大し, 極大を経てその後減少することが解った. このことは, 微量のNi酸化物をバイコールに担持することにより, ケトンの光化学反応性が向上することを示すものである. Ni酸化物担持バイコールでは, ケトンの吸着後も表面OH基のIR吸収の変化は見られなかった. 一方, 四配位Ni^<2+>イオンのC-T吸収がケトンの吸着量の増加とともに減少し, 代わって六配位のNi^<2+>イオンに基づく新たな吸収が出現することが解った. 担持したNi^<2+>イオンの量を増加させた時の四配位Ni^<2+>イオンのUV吸収強度の変化は, ケトンの光分解収率の変化と同様の変化を示し, 光分解収率の増加が四配位Ni^<2+>イオンの濃度と良い対応関係にあることが明らかになった. ケトンのリン光スペクトルとその励起スペクトルの波長域には, バイコールだけの場合と比較して大差は認められなかった. 一方, リン光の収率は大きく変化し, Ni酸化物を担持したバイコール上に吸着した場合には, ケトンのリン光収率が著しく増大することが解った. リン光の減衰から求めた励起三重項の寿命は, Ni酸化物を担持していないバイコール上のものと比較し約10倍長くなることが解った. 以上の結果を考慮すると, Ni酸化物を担持したバイコール上ではケトンは選択的に四配位Ni^<2+>イオン上に配位子と吸着し, このような孤立した状況下では光励起により生成するケトン励起三重項の失活は起こり難く, 寿命が長くなりその結果光分解反応の収率の向上が見られるものと考えられる. このように吸着媒表面を化学的に修飾することにより, その上に吸着した化合物の光化学反応性が向上することが解った.
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