研究概要 |
現在, 多くの制限酵素が発見され, 遺伝子工学や分子生物学領域で利用されているが, 切断し得る塩基配列は限定されている. そこで, 特定塩基配列を認識・切断する分子を設計・合成し, 試薬としての有用性を評価することを計画した. ブレオマイシンー金属錯体による効率のよいDNA切断能および選択的DNA塩基認識の分子機序を確立し, 本原理に基づいた人工制限酵素の設計を試みた. 人工制限酵素の設計の基本原理としての金属ブレオマイシンによるDNA塩基認識と切断の分子機序に関しては, β-アミノアラニンーピリミジンーβ-ヒドロキシヒスチジン部分で形成される5-5-5-6員環の金属錯体とその酸素活性化によるDNA攻撃種の生成とビチアゾール部位での選択的DNA塩基相互作用の二官能性が重要であることが明らかになった. また, グロースーマンノース糖鎖部位もブレオマイシンの効果的な酸素活性化やDNA切断を示すための立体環境因子として重要であることが判明した. さらに, ブレオマイシンー金属錯体によるDNA切断の塩基配列特異性がビチアゾール周辺部位のDNAマイナーグルーブへのイソヘリカルな結合, ビチアゾール環窒素とグアニン塩基の2位のアミノ基との水素結合, およびビチアゾール部位とグアニンN2-ピリミジン02領域との適合によって達成されていることが強く示唆された. 人工制限酵素の分子設計に対する基本戦略として, DNA攻撃部位の設計と合成, およびそれへのDNA認識部位の結合による人工の選択的DNA塩基切断分子の生成を考えた. その結果, 合成化合物ピリジンモデル配位子の一つがブレオマイシンに匹敵する分子状酸素活性化能力をもち, この配位子へのビチアゾール周辺部位の結合は, 確かに天然ブレオマイシンと類似したグアニンーピリミジン(5′→3′)部位の選択的DNA切断を与えた.
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