研究概要 |
12-モリブドリン酸のイオン選択性電極としての機能について研究を行い更に光電子分光, 赤外線吸収スペクトル, ラマン分光法等により電子状態や構造上の知見を得る試みを行った. 水素イオン濃度感応電極について感応膜の厚さと12-モリブドリン酸の添加量との関係を詳細に調べた結果, その関係は膜厚をdum, 添加量をP(重量%)とすると20+0.2d≦P≧30+0.4dと表せることが分かった. 12-モリブドリン酸の量を50%としたとき, 水素イオン濃度の対数一単位あたりの電位変化が51mVの傾きをもつ電極を作製することができた. この方法で電極を作製した場合, ヘテロポリ酸は還元されて青色を呈している. この状態を明確にするため, まずX線光電子分光法により酸化型と還元型の粉末12-モリブドリン酸の内殻軌道3d_<3/2>と3d_<5/2>の光電子スペクトルを測定した. 酸化型のものはClsエネルギー基準(285.0eV)で結合エネルギーが236.8eV(3d_<3/2>)と233.6eV(3d_<5/2>)のピークのみが観測されたが, 還元型のものは上の2つのピークの他にこれと重なって235.6eVと232.4eVに極大をもつスペクトルを得た. これにより明らかに還元型の12-モリブドリン酸は混合原子価状態となっていることが確かめられた. さらにポリ塩化ビニル膜状となっている電極膜についても測定を行った. 更に価電子状態を調べた結果, 酸化型のスペクトルではパラジウム金属基準のフェルミ準位の付近に電子密度は見いだせなかったが, 還元型のものは電子状態密度スペクトルが観測された. これらの結果から, 還元型においては価電子帯に入った電子は非局在性であると考えた. これらの結果から12-モリブドリン酸はプロトン伝導体として働き, その還元型の中では, さらに電子も動きやすく電導性を増す役割をしているものと考えた.
|