研究概要 |
プラスミドにクローン化した大腸菌染色体複製起点(oriC=245bp)は, その周辺領域よりの転写に依存することなくプラスミド複製の開始を行うことを, 我々は既に見出していた. 今回, クローン化oriCの染色体導入を試みたところ, 導入したoriCそのものが宿主染色体の複製開始を行う事を発見した. この事実はoriCが染色体複製開始能に関しては, 必要旦充分の構造と機能を保有しており, DNA複製に必須であるRNA合成も最低限oriC内部で賄われていることを示唆している. そこでこのRNAの検出をoriCに限り以下の方法で試みた. 独自に開発したプロモーター検定ベクターpMS4341に種々のoriC断片を挿入し, 発現するβ-ガラクトシダーゼ活性を測定する. この方法は極めて高感度で定量的である. 一方この系において, 複数の転写産物RNAの分子種を識別するため, S_1ヌクレアーゼ分析法によりoriCRNAの検出定量を行う. 多種にわたるoriCDNA断片の使用と, 染色体複製開始に必須の因子dnaAの欠損変異株の使用の組合せにより, 以下の事実が判明した. (1)oriC内部のほぼ対称的な2点よりそれぞれ両方向に転写が開始する. これら2点にはそれぞれにプロモーター構造をとることが可能であり, 他の実験事実からもこれらは「oriC転写」の開始点と考えられる. (2)何れの「oriC転写も, oriC構造が完全な場合, 一定の転写を行った後転写停止あるいは産物RNAの切断を受るらしい. 「oriC転写」のこの現象は, oriC構造の完全・不完全に拘らずdnaA欠損状態においては観察されない. ここに得られた結果について考察すると, oriC内部の2点より2方向に向って起る転写産物RNA種は, DNA複製可能な条件下において, (a)プライマーRNAとして機能するか, もしくは(b)oriC構造の部分開裂を保全し, 新生DNA鎮の生成に寄与するものと考えられる.
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