研究概要 |
神経細胞結合タンパク質N型カドヘリンの, 全長に対応するcDNAの分離とその構造決定に成功した. その概要は以下の通りである. ニワトリの網膜と脳のポリ(A)^+RNAから, cDNAライブラリーを作り, この中から, N型カドヘリン抗体と反応するクローンを分離し, ヌクレオチド配列を決めた. 種々の検定の結果, 得られたcDNAはN型カドヘリンのものであることが分かった. つぎに, このcDNAをプローブとしてmRNA全長に対応するcDNAをクローニングすることに成功し, そのヌクレオチド配列を決め, アミノ酸配列を予測した. この中には, 翻訳開始部位およびシグナルペプチドに対応する配列, ポリAシグナルが明らかに読み取れ, さらに, ペプチドの疎水性の検定により, 膜貫通部位と想像される配列がカルボキシル末端側にみいだされ, N型カドヘリンが膜蛋白であるという予測と完全に一致した. このcDNAをL細胞に導入し発現させると, L細胞はN型カドヘリンを発現し, この分子に依存して接着するようになったので, ここで得られたcDNAがN型カドヘリンの接着機能についての全情報を持っていることが証明された. また, ニワトリのcDNAをプローブとして, マウス脳cDNAライブラリーから, マウスN型カドヘリンcDNAをクローニングすることにも成功した. 現在塩基配列を決める作業が進行中である. 一方, N型カドヘリンの神経発生における役割を調べるため, 網膜組織におけるN型カドヘリンの分布を明らかにした. さらに, 網膜をN型カドヘリンを阻害する抗体存在下で浮遊培養し, 形態形成に及ぼす影響を調べた. その結果, 正常の培地では, 網膜の層分化が正常に進行するが, 抗体を加えると, 層形成に著しい異常が生じた. このように, 網膜をモデルとして, 神経組織形成においてN型カドヘリンの存在が必須であることを示すことができた.
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