研究概要 |
横紋筋を中心にミオシンATPaseの活性中心の同定を行ってきた. その結果, 多くのミオシンに共通した疎水性のペプチド構造が見つかった. この知見を血管平滑筋のミオシンについても検討し, 収縮調節系の異なる運動系の構造的理解を深めようとした. まず, ミオシンの活性中心にADPの光アフィニティーアナログ(NANDP)をバナジン酸によってとじこめた. 遊離のNANDPを除いた後, 光分解によって活性中心を標識したところ, 意外なことにミオシン重鎖とともに17kDa軽鎖が標識された. NANDPは非常に安定に活性中心にとじこめられていた上, その部位はADPと競争的な性質をもっていたことから標識部位が活性中心又はそのごく近くであることはまちがいない. この様な軽鎖の標識は横紋筋では全くみとめられていない. この結果によく対応する別の実験結果がある. 即ち, ケイ光プローブで標識した17kDa軽鎖を組みこんだ平滑筋ミオシンに基質MgATPを加えると, その軽鎖の構造変化を示すスペクトル変化がみられた. このことは平滑筋ミオシンの17kDa軽鎖が未知の重要な生理機能を担っている可能性を示唆しているものと思われた. そこで平滑筋同様軽鎖のCa調節機構への関与が明白なホタテ貝横紋筋を用いて同様の実験を行ったところ, Caの有無にかかわらず軽鎖は全く標識されず, 重鎖のみが標識された. この結果は17kDa軽鎖の標識が平滑筋に特有のものである可能性を示唆している. 今後, 軽鎖リン酸化による収縮調節系を検討するとともに, 平滑筋ミオシンに特有の10S構造をとっている状態の活性中心の構造と17kDa軽鎖の関係を明らかにしていきたい. これらの研究を通して平滑筋細胞に特有の著しい細胞形態の変化とミオシンフィラメントの消長について理解を深め, それらの生理機能発現の構造的基盤を明らかにしていきたい.
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