研究分担者 |
森 武三郎 科学技術庁, 放射線医学総合研究所, 主任研究官 (00166357)
加藤 義雄 科学技術庁, 放射線医学総合研究所, 部長 (30161128)
安倍 弘彦 久留米大学, 医学部, 助教授 (20080658)
神代 正道 久留米大学, 医学部, 教授 (90080580)
畠山 茂 東京医科歯科大学, 医学部, 教授 (30045926)
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研究概要 |
「トロトラスト(コロイド状二酸化トリウム)は血管X線造影剤として昭和初期に開発され, 25年頃まで広く使用されてき, 特に第二次世界大戦中は戦傷者の血管傷害の診断に多用された. しかし, この薬剤は体内注入後ほとんど体外に放出されず, 10年以上経過した患者に肝悪性腫瘍の多発が認められたため, 放射線による晩発障害の典型例として西ドイツおよび本邦において調査が始められ, 本邦では厚生省および文部省において研究班が発足した. すなわち, 文部省では科学研究費エネルギー特別研究(1)の中に「トリウムの生体影響班がもうけられ, 55年度から7年間にわたり, 主としてトロトラスト肝悪性腫瘍の疫学的研究と放射線物理, 化学, 生物学的基礎研究が行われてきた. そして, その研究成果に基づき62および63年度の2年間にわたって, 1.疫学的研究の継続 2.病理学的研究 3.臨床研究 4.統計的研究を進め, これらを総合的に検討して「トロトラスト」による人体の放射線晩発障害の解明を行うことになった. 62年度に得られた結果について述べると, 1.疫学的研究:1986年末までに確認された本邦における「トロトラスト」被注入戦傷者数282例のうち, 63例が現在なお生存しており, 死亡者のうち肝悪性腫瘍が54例, 白血病が4例, 肺癌が4例, 骨肉腫が1例, その他の悪性腫瘍が25例, 肝硬変が21例認められた. 2.病理学的研究:肝悪性腫瘍病変部の剖検検査により, 「トロトラスト」肝悪性腫瘍の大部分が胆管癌もしくは肝血管肉腫であることがわかった. 3.臨床的研究:肝蔵以外の病変については脾臓の著しい萎縮が認められたが発癌には至っておらず, 腫瘍マーカーも認められていない. 4.統計的研究:肝癌発生平均年令について「トロトラスト」注入者群と非注入者群を比較したところ, ほとんど有意の差は認められなかった. 63年度も継続して研究を進展させるとともに, 外国でのデータとも比較して信頼できるリスク評価を求める
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