研究課題
総合研究(A)
本研究の目的は大正新脩大蔵経収載の諸典籍のうち、日本撰述唯識典籍の学術用語の研究にある。その三年間に亘る研究から「研究成果報告書」の如く、貴重な成果をあげることができた。慈恩の五重唯識説は観理や真興に受けつがれ、平安時代を代表する学説であるが、奈良時代の唯識学匠である善珠や護命などにもこの傾向がみられ、五重唯識をもって唯識観を注釈することは、奈良時代から平安時代にかけての伝統的な注釈態度であったものと思われる。ところが、これに対して鎌倉期になると、貞慶、良遍による新しい唯識観の体系が提唱された。それは「依註・癈註の二重の観」である。この観法の特色は、三無性に重点をおく「空観」を強調した点にあり、それまでの唯識観はあくまでも三性観であった。ところが貞慶と良遍は最終的に真理を証するのは空観であるとの見地から、徹底的に空観を重視した三無性空門の唯識観を組織し大成したのである。このように貞慶・良遍によって体系づけられた三無性空門の唯識観は中道の考察から案出されたものであり、その源をたどれば慈恩所立の四重二諦説にまで行きつくのである。すなわちすでに教体論としてあったものをヒントに新たな唯識観の体系を案出したのが貞慶であり、それをより具体的に組織・大成したのが良遍である。唯識観は良遍に至ってかなり具体的に整理され、やがて「観念発心肝要集」として一つにまとめられ、鎌倉以降の唯識学僧の観法の指針となった。そしてこの三無性に依拠した唯識観は以後の5重唯識の解釈にも大きな影響を与え、ますます空観の重要性が高められていくことになるのである。
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