研究概要 |
本年度は新宗教運動に関する既存の調査研究を批判的に検討し, その方法論的視座の有する意義と問題点とを明らかにすることによって, 民衆宗教の総合的理解のために基礎的研究を行なうことに重点を置いた. それゆえ基礎的研究文献や, 教団リーダー・信者等の宗教体験を収録した基本的資料の集積に努め, 研究会等を通じてそれらを検討することが活動の中心であったことはもとよりである. だが一方では, 新宗教諸教団を具さに調査研究することにより, かかる民衆宗教と日本文化の基層に存し続けてきた諸々の要素(たとえば陰陽道)との関わりを確認し, 方法論的問題の上で得る所が大きかった. すなわちまず, 幕末維新期の激烈な社会変動の中で誕生した天理・金光・黒住の各教は, 固定化して民衆の要望に応え得なくなった既存の価値体系を克服することを重要なモティーフとしていたが, 逆に見けばそれだけ密接に克服すべき当の対象と関係していたのであって, こうした点を伊勢皇大神宮との比較によって明確に捉えた. また同様に, 第二次世界大戦をはさむ変動の時代に登場した生長の家教団の調査においても, かかる新教団形成のプロセスが孕む普遍的側面と特殊な要素との抽出・孝察に多くの成果を得ることができたのである. すなわち, 新宗教運動は大きな社会変動の中で民衆の要請に応える形で現出し, 混乱の中に原初の聖なる秩序を取り戻そうとする(永遠回帰)普遍的側面をもっているが, 同時にそれらのひとつひとつは教祖のすぐれて特殊・個人的な危機の体験に根差しており, 新宗教運動の内在的理解のためにはこうした二つの側面の弁証法的関係を究明することが肝要なのである. そしてこのような構造は, 現代の民衆が直面する諸々の問題を内包する, 九州・中国地方の小さな新宗教諸教団においてよりストレートな形で確認されたのである. かかる宗教学方法論の反省は, 次年度以降の総合的研究に必須の前提とされるであろう.
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