研究分担者 |
吉見 俊哉 東京大学, 新聞研究所, 助手 (40201040)
大畑 裕司 東京大学, 新聞研究所, 助手 (10176977)
五十嵐 暁朗 立教大学, 法学部, 教授 (90097220)
今 防人 相模女子大学, 一般教育部, 教授 (00062654)
栗原 彬 立教大学, 法学部, 教授 (10062613)
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研究概要 |
当初の研究計画にあったように, 新井奥邃・江渡狄嶺の二人の思想家についての研究を進めた. 両人の著作および一部の復刻は以前に絶版になっているが, これらを関係者や各地図書館を訪ねて探し, 複写し, 大部分をそろえることができた. また, 東京杉並の狄嶺文庫にあり手稿類や書簡についても一部調査を標めたが, 宮城教育大図書館, および奥邃研究者であった林竹二の遺族により国会図書館に寄贈された奥邃関係文書についてはまだ調査できていない. これらのテキストに表現されている思想の分析から, 奥邃は明治・大正期のトルストイ思想の流行やトマス・レイク・ハリスの思想の受容に触発され, 一種のユートピア・コミューンの実験を企図したことが確認された. また, 狄嶺についても, トルストイ, ベルグソン, クロポトキンの影響のもとに田園生活の理想の実現に向うものの, 挫折の体験により, 道元など日本の思想へと回帰し, 農乗論の思想およびその実践としてのコミューンに向うことが確認できた. ところで, 奥邃や狄嶺の思想は今日, 奥邃会や狄嶺会の活動のなかに一部受け継がれているが, これらの会の人間関係のネットワークを聴き取りにより調査してみると, 会員たちは必ずしも両人のユートピア思想によってのみ感動させられてこのネットワークに入ったのではないことが推測できる. 思想よりも, 会員各人が青年期に二人の師と出合った各々の出会いの形態, そこで両人の人格的資質に触発されて入ってきたようなのである. ヨーロッパにおけるフーリエやカベーなどのユートピア思想家たちのコミューンの企画を支えた人間関係のネットワークについては, すでにこのような傾向が指摘されているが, 社会的伝統やコンテクストを異にするわが国でも, 同様のことが確認されるのは興味深い. 本年度の研究で明らかとなったのは以上のことである.
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