研究概要 |
二ケ年に亙る本研究は, 社会における中間的諸団体の中でも, 社会構成の最も基礎的細胞である「家族」に焦点をあわせ, その内部構造と社会とがとり結ぶ関係を, 時代的地域的にできる限り広範にかつ具体的に研究することを目的としている. 初年度に得られた知見は以下の通りである. 1.従来の歴史人口学は, 主に人口動態研究を中心としていたため, 家族の問題を避けてきた傾向が見られるが, ラスレットかフランドランなどを中心として, 家族をキーとして, 歴史人口学と社会との結合をはかる研究も出されつつある. 2.また, ビュレギエールや, セガレーヌらは, 婚約や結婚の習俗にみられる, それぞれの社会での象徴機能を分析し, 歴史人類学からの成果をあげている. 3.上記の手法をふまえて, 従来の研究成果の見直しや, 新たなるケース・スタディーを行ったところ, 家族の行動様式やその内部構造, その象徴性などにおいては, それぞれの時代・地域に固有な社会システムと, 予想以上に密接なかかわりが見い出された. 例えば, 中世後期イングランドでは, 中小貴族の行動はすべてlignage(系族)単位が基本となっていたが, その為, 個人の結婚・相続・死などはすべて家系という観点を離れては存在せず, 地方的政治集団も, この家系の行動の集合離散という形であらわれた. このような特質は, 同時代のフランスやイタリアでも見い出されたが, その現出のしかたには, 非常に大きな較差がみられた. そこで今後の研究の展開の方向としては, これらの較差が, それぞれの社会固有の特質と, どう具体的にかかわっているのか, また, 家族内の構成員の人間関係の問題についても目を向けると, 何が言えるのか, 等を検討してゆく必要がある.
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