研究概要 |
本研究は, 多国籍企業による海外直接投資についてマクロ経済学的分析として独特の理論を展開し, その評価を行った「小島理論」を整備し拡延することによる体系化を目的としている. 小島理論によれば, 外国ではまだ成育していない, したがって比較優位の強力な産業が自国から外国へ直接投資する場合には, 直接投資による輸出の代替が発生し, その結果貿易量の減少, 世界経済厚生の低下ということになる(アメリカ型). 他方, 外国で比較優位化しつつあり, 自国では比較劣位化がみえてきている産業について自国がら直接投資が行われる場合, 貿易量の増大と世界経済厚生の増大が生じる(日本型). この小島理論は, 静態的であるため, これを動態化する途が模索されている. しかし, 動態化を伝統理論分析のように単に時間をエクスプリシットに導入するだけでは真の分析とならない. 直接投資は生産構造を変化させると共に貿易パターンをも変化させる可能性が高いため, このような不連続的構造変化は構造パラメターを不変とする伝統的アプローチになじまないからである. したがって, どのような構造的変化が直接投資にともなって生じ, その結果貿易パターンがいかなる形で想定されるかを考えなければならない. 他方, 直接投資受入国においては, 直接投資による産業発展や経済成長・貿易収支余剰の成果が出るように外資導入政策が行われ, 同時に不適切な直接投資は排除し, 十分に育った産業については現地化が行われる. また直接投資が余りも大々的に行われること, 本国において産業空洞化が発生し, 国民経済の衰退につながりかねないことから, 直接投資に対して何らかの規制を加えなければならないこともありうる. 本年度の研究は, これら問題の枠組と既存の研究について基礎的な考察とサーベイを中心に行われた.
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