研究課題
本年は、昨年度までの研究成果を持ち寄って、数度にわたる研究会において検討を行う、総括の年となった。都市の機能が文学生産に与えるさまざまな影響について、社会学、歴史学、記号論、都市工学などの観点から、活発な議論が行われた。主な論点は以下のとおりである。吉田城は、19世紀末から20世紀初頭にかけてのパリを総体的にとらえ、当時の資料などにもとづいて、ベルエポックの社会生活を再構成した。その上で、マルセル、プル-ストの小説にあらわれた都市の形象の性格を分析した。岩倉具忠は、イタリア・ルネサンスにおけるロ-マ・ヴェネツィア・フィレンツェなど各都市の政治権力・宗教権力・知識人社会といった各視点から比較検討し、それをダンテをはじめとするイタリア作家たちとの関わりにおいて論じた。佐々木綱は、近代都市の都市計画がもちうる文化的象徴性について、きわめて斬新な分析を行なった。中川久定は、フランス大革命期において、パリという都市がもった文化的、政治的、社会的意味を、当時の演劇の批評作品の中に探り、都市と文学の緊張関係のあらわれ方を分析した。日野龍夫は、江戸時代の日本における諸都市の機能的差異(大阪/京都/江戸)を、文学風土との係わりにおいて研究した。このほか、露崎俊和はボ-ドレ-ルとパリの関係を論じ、服部春彦はアナル派歴史学における都市の扱い方について研究発表をした。以上の研究成果の一部は冊子体の報告書として刊行が予定されている。また、報告書に記載できなかったものについては、各自今後いっそう深化させた上で、活字にする予定である。
すべて その他
すべて 文献書誌 (2件)