研究概要 |
昭和62年度は, 研究集会を5回開催し, 各島ごとに予備調査を実施した. その結果, 以下のような新たな知見と成果をあげることができた. 1.本年度は, 各島の民俗誌, 雑誌論文, 報告書などの文献について本研究の目的に沿ったデータを資料化(カード化)し, それらを詳細に検討した. その結果, 各文献の断片性をかなりの程度補い, 総合的な資料としての利用が可能となった. ただし, 各島でのデータの偏りが目立ち, とくに儀礼信仰習俗についてはその傾向が大きいため, 今後の調査研究によって補足し, 島世界の全体的把握を目指していかなければならない. 2. 予備調査の諸成果を検討した結果, 一島一村型の島(神津島, 三宅島など)と, 一島多村型の島(大島, 八丈島など)とでは, 空間認識の在り方に差異と類似があり, それに伴って島ごとに柔軟な調査方法を採らなければならないことが明らかとなった. 3. 各島の予備調査によって, 生業形態, 社会組織, 年中行事, 信仰習俗などについて基本的な理解と認識をえた. 島の立地条件や自然環境, 生業活動と, 信仰, 儀礼などからのアプローチの両者を有効に組合せて, 調査研究を進めていくことが, 本研究の目的である民俗的空間を構造的に捉える上で基本的に重要であり, 今後の研究目的を達成する解明の糸口となりうるであろう. 4. 各島は, 観光化や港湾設備の整備などに伴う産業構造の変化によって, 隠居制や若者組などの社会組織, 儀礼祭祀集団などの顕著な解体と再編成をみた結果, 伝統的な儀礼, 禁忌習俗などの重要性が生活構成の中で低下している. その一方で, 新たな生活環境に対応した島世界についての空間認識が生成されつつあり, その過程を明らかにしていくことが今後の課題である.
|