研究概要 |
繰返し負荷のもとでの機械・構造システムの安全性の確保は,同システム要素が破壊に至る際の各段階における疲労き裂挙動を把握することに深く関わっている. 特に微小き裂進展挙動については,未知の問題として従来より重大な関心が寄せられていることから,本研究では材料として最も基本的なパーライト・フェライト(PーF)鋼を用いて微小き裂進展挙動に関する実験的解析を行った. 得られた結果を以下に述べる. (i)PーF粗粒組織を有する鋼においては,極低サイクル疲労域において,表面き裂型から内部き裂への破壊モードの遷移が現われる. それに伴い破断寿命は同通常の低サイクル疲労域におけるManson-Coffin(以下MーC)型寿命曲線からはずれ短寿命側に移行する. この傾向は平均ひずみのもとで顕著となる. (ii)破壊モード遷移は,内部パーライト割れを引金とする内部き裂型の破壊が表面き裂型の破壊に先行して最終破断をもたらす結果として生ずる. (iii)PーF細粒組織を有する鋼や組織中にパーライトを含まない純鉄においては, かかる破壊モード遷移は現われず,全てのΔερ領域に渡って表面き裂型の破壊となり, これに対応して単一のMーC型寿命曲線により寿命が規定される. (iv)表面き裂型破壊に支配される低サイクル疲労においては,微小き裂進展則を基礎としてMーC型疲労寿命則が導かれ,又破断延性の大小が低サイクル疲労寿命に及ぼす影響も,この微小き裂進展則の立場から明快に説明される. (v)高サイクル疲労領域におけるPーF組織を持つ平滑試験片の微小き裂の進展は,微小き裂の相互連結過程を経て行われるため, 進展経路の特定組織選択性が比較的長い寸法範囲まで現われる. (iv)微小き裂寸法に対しても相対的に微細で均質な球状化セメンタイト組織中では,微小き裂進展時に特有の高い組織選択性が失われる.
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