純ジルコニアには高温から低温にかけて立方晶、正方晶、単斜晶の多形があり、Y_2O_3、CaO、MgOなどを添加することにより、高温相が低温でも得られるようになる。この種のいわゆる部分安定化ジルコニアは強靱材料として、また、安定化ジルコニアは耐火物やセンサーなどとして利用されている。著者はこれまでZrO_2ーY_2O_3系の状態図と組織、および相変態について、アーク溶解試料および焼結試料を用いて研究を行ってきた。本年度は高周波スパッタリング法により薄膜をつくり、これを加熱した場合の組織変化を調べることとした。 まず、種々のY_2O_3濃度の共沈ジルコニア粉末を用い、ホットプレート法により直径50mmのターゲットをつくった。この裏面を超音波加工機を用いて凹所をつくってから、Inを用いてバッキングプレートに貼りつけた。 スパッタ装置は本補助金によって購入した日本真空技術(株)製の高周波スパッタ装置である。基板には単結晶のKClおよびMgOの(100)面を用いた。 蒸着したままの膜は20mm程度の平均粒径の多結晶体であり、膜面に平行に(110)と(100)が優先的に配向しており、8mol%Y_2O_3試料は立方晶単相であったが、2.5、3、4%Y_2O_3試料では正方晶相が混在していた。これを473Kで720ks加熱したが、単斜晶相の生成を確認できなかった。しかし、2%試料では単斜晶相が生成した。この試料でもなお立方晶のみの部分もあり、立方晶→単斜晶の遷移が困難であることを示している。また、予め873Kで90ks時効処理をしてから473Kで3.6ks加熱した2%Y_2O_3試料には多量の単斜晶相が存在していた。これは、正方晶→単斜晶の遷移が容易に起ることを示している。
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