研究概要 |
昭和62年10月に本学RI総合センター内に設置が完了した200kV透過電子顕微鏡を用いての損傷組織の観察を中心的な実験手段とし, 中性子照射下での欠陥集合体の形成過程に関する研究を行った. 中性子照射によって蓄積される欠陥の種類や量は, 照射温度や先在欠陥に極めて敏感であることがこれまでの我々の研究などから明らかにされつつあるが, このことは核融合炉や原子炉の運転中の温度移動が, 炉材の損傷に予想外の影響を与える可能性があることを示唆するもので, 炉材料の設計上極めて重要な現象と思われる. 本研究では照射損傷形成に及ぼす温度変動効果をその原理から理解することを目的として, 核融合炉候補材である改良316鋼とそのモデル合金,ニッケル銅を試料とし, 90℃/350℃,200℃/350℃及び400℃/150℃の3種類の異った温度の組み合わせによるRTNSーIIによるDーT中性子照射実験を行った. 本年はニッケルにおける90℃/350℃照射に関するデータの取得がほぼ完了し, 以下の様な知見が得られた. 90℃で照射すると高密度の微小な積層欠陥4面体や転位ループが照射量に比例して形成される. この試料を350℃の高温で再照射すると, これらの欠陥は自由欠陥を吸収しほとんど消滅し, 代わって高温型の欠陥であるボイドが形成される. しかしながら90℃での照射量が3×10^<17>n/cm^2程度以上(0,001dpa以上)の場合には90℃で形成された格子間原子型転位ループの一部が生き残り, 350℃のみの照射ではほとんど発生の可能性のないループが多数発生し成長することがわかった. このことはわずかの低温での照射が高温でのその後の損傷組織の発達を全く異った方向に導くことを実験的に示したものであり, 現在さかんに行われている原子炉照射実験で, 巌密な温度制御が必要であることを示している.
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